美術館訪問記-301 ハーヴァード大学付属美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ハーヴァード大学付属美術館外観

添付2:ハーヴァード大学付属美術館内部

添付3:コスメ・トゥーラ作
「東方三博士の礼拝」

添付4:ボッティチェッリ作
「聖母子」

添付5:アングル作
「ラファエロとフォルナリーナ」

添付6:ルノワール作
「35歳の自画像」

添付7:ゴッホ作
「ゴーギャンへの自画像」

添付8:ロセッティ作
「海の呪文」

添付9:バーン=ジョーンズ作
「フラマ・ウェスタリス」

前回の話で、では大学付属美術館として世界で1,2を争う美術館は他に どこがあるのかという疑問を持たれた方もおられるでしょう。

一番知られているのは「ハーヴァード大学付属美術館」でしょうか。

所在地はアメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジ。 チャールズ川を隔ててボストンの対岸に位置しています。 全米を代表する大学都市でマサチューセッツ工科大学もここにあります。

ハーヴァード大学は1636年創立のアメリカ最古の高等教育機関であり、 世界大学ランキングでは、長年にわたって1位を独占しています。

現存の資産10億ドル以上の億万長者の内62人はハーヴァードの卒業生であり、 8人のアメリカ合衆国大統領、130人以上のノーベル賞受賞者を輩出。 345億ドル(約3兆9千億円)の資産を持つ世界一裕福な大学でもあります。

世界中の主な美術館は美術品の寄贈者と美術品購入資金寄付者によって 支えられており、富豪や社会的成功者が卒業生に多ければ、 彼等の寄贈・寄付により、当然所蔵品の質量共豊かになって来ます。

ハーヴァード大学付属美術館には西洋美術中心のフォッグ美術館、 ドイツ語圏美術に特化したブッシュ・ライジンガー美術館、 東洋美術、イスラム美術など非西洋美術が中心のアーサー・M・サックラー美術館の 3美術館があります。

1895年と最初に開館したフォッグ美術館は実業家ウィリアム・ヘイズ・フォッグの コレクションと20万ドルの寄付金が基になっています。 尤もフォッグ自身は14歳で実業界に入りハーヴァードを卒業してはいませんが。

その後も相次いだ寄贈、寄付により大学付属美術館として最高レベルにあるのは 勿論、世界の一流美術館にも伍するコレクションとなっています。

大学の美術研究に役立てるべく、一国一時代に偏しない幅広いコレクションを 持っていますが、特にギリシャの壺、ロマネスク彫刻、中国の翡翠と青銅器部門、 イタリアのルネサンス絵画、19世紀フランス絵画、ラファエル前派、版画、 デッサンが充実しています。

上記3美術館はそれぞれ独自の建物に入居していたのですが、2008年にフォッグと ブッシュ・ライジンガー美術館を閉鎖し、その跡地にレンゾ・ピアノ設計の 3美術館を一つ屋根の下に納める新美術館を建造。2014年11月新規開館しました。

それにしてもレンゾ・ピアノはこれまで第166回のバイエラー財団美術館、 第209回のロサンゼルス・カウンティ、第263回のパウル・クレーと 新美術館建設設計の常連になっていますね。

イタリア美術ではアンジェリコ、フィリッポ・リッピ、ベノッツォ・ゴッツォリ、 クリヴェッリ、コスメ・トゥーラ、ベッリーニ、ギルランダイオ、フォッパ、 ボッティチェッリ、ロレンツォ・ロット、ティツィアーノ、ピエロ・ディ・コジモ、 ベルナルディーノ・ルイーニ、ピントゥリッキオ、ティントレット、ティエポロ、 カナレットなど世界最高水準の品揃え。

フランス在住者からはプッサン、ジャック=ルイ・ダヴィッド、アングル、コロー、 ミレー、クールベ、ドーミエ、ブーダン、モロー、マネ、ピサロ、ドガ、シスレー、 セザンヌ、ルドン、モネ、ロダン、バジール、ルノワール、アンリ・ルソー、 ゴーギャン、ゴッホ、スーラ、トゥルーズ・ロートレック、ボナール、 ヴュィヤール、マティス、デュフィ、ピカソなど多士済々。

イギリスからはロセッティ、バーン=ジョーンズ、ミレイ、アルバート・ムーア、 ジョージ・ワッツ、ブレイク、サージェント、ホイッスラーなど。

これにクラナッハやルーベンス、レンブラント、キルヒナーなども加わります。

傑作は選ぶのが難しいほど沢山ありますが、コスメ・トゥーラのトンド、 「東方三博士の礼拝」は彼の絵としては、実に素直で珍しい。

フランス新古典主義最後の巨匠アングルの「ラファエロとフォルナリーナ」は ラファエロと彼の永遠の恋人とされるパン屋の娘フォルナリーナを描いたもので、 ラファエロはフォルナリーナを抱擁しながらも、目は彼の名作となる描きかけの フォルナリーナの肖像に注がれています。

現実から理想への芸術的昇華を意図した名作です。

ルノワールの「35歳の自画像」は、彼のこんな若々しい自画像は他で観た 記憶がなく、彼が生涯に描いた2000点を超える肖像画の中でも異色の軽やかさで 新鮮でした。

自画像と言えば、ゴッホの「ゴーギャンへの自画像」も彼の短い生涯に描いた 37点の自画像の中では異色です。

この絵は彼がアルルに滞在中にゴーギャンを呼び寄せようと彼に送ったものですが、 ゴッホが弟テオへの手紙に「肖像画は永遠性を象徴するために頭部の背景に後光を 付け、目は日本人のように少し目尻を上げて描いた」と書いたように 特別なものだったのです。

ロセッティの「海の呪文」は、美しい歌声で船乗りを誘惑して殺してしまう 海の精セイレンを描いていますが、彼女が爪弾いている、リンゴの木に結わえた 楽器は日本の琴なのです。この絵は1876年頃描かれていますが、当時既に琴が イギリスの画家達にまで知られていたのですね。

バーン=ジョーンズの「フラマ・ウェスタリス」はラテン語のタイトルで ローマ神話の竃の神、転じて家庭の守護神ウェスタに仕える巫女を表し、 貴族階級の処女が選ばれ、神官たる間は純潔が求められました。

絵のモデルはバーン=ジョーンズの娘で、神秘性を醸し出す光の扱いや 衣装のデザインはレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザを思わせ、 画家のルネサンス風の描き方への関心が窺われます。

ハーヴァード大学への寄付金は年額800億円程といいますから、 美術品寄贈と併せて今後もどんどんコレクションを増やして行く事でしょう。