美術館訪問記-300 ボブ・ジョーンズ大学美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ボブ・ジョーンズ大学美術館正面

添付2:ボブ・ジョーンズ大学美術館内部

添付3:ボッティチェッリ作
「聖母子と天使」

添付4:レオナルド・ダ・ヴィンチ像、台座正面がマルコ・ドッジョーノ

添付5:マルコ・ドッジョーノ作
「湖の聖母」

添付6:ソドマ作
「十字架を運ぶキリスト」

添付7:サッソフェッラート作
「受胎告知のマリア」

添付8:ルーベンス作
「十字架のキリスト」

添付9:ムリーリョ作
「天国にいるような羊飼い」

サウスカロライナ州グリーンビルにはオールド・マスターのコレクションでは、 大学付属美術館としては、世界でも1,2を争う美術館があるので、 ここで紹介しておきましょう。

その名は「ボブ・ジョーンズ大学美術館」。

何せ27部屋もある展示室全てがオールド・マスターで埋っているのですから。

何故これだけの作品を集められたのか。

代表作を収めた本の説明によると、驚くべき事にボブ・ジョーンズ・ジュニア博士 というボブ・ジョーンズ大学創立者の息子が1948年から年額僅か3万ドルまでの 大学の資金を使って一人で収集した結果なのだといいます。

この頃第2次世界大戦後で美術市場が低迷しており、 加えてバロック美術の評価が不当に低かった事も寄与しているのでしょうが、 それにしても瞠目すべきコレクション。

大学はキリスト教を中心に一般教養を身につけるべく1927年に私立大学として 創立されている事もあり、収集作品の主題は西洋の宗教関連に限られています。

南部の学校で、1975年まで黒人の入学を制限し、2000年まで異人種間の男女交際を 学則で禁じていたという事ですが、私が訪れた2012年には各部屋の至る所に教員や アルバイト学生とみられる白人黒人男女の看視人がいました。

アメリカに限らず世界中の大学付属美術館や公立美術館では多くの看視人を 見かけます。就職の機会を与え、福祉と就業率の向上という意味があるのでしょう。

1951年の開館時にはバロック絵画30点のみの展示でしたが、現在ではその後の 購入と相次ぐ寄贈で14世紀から19世紀までのヨーロッパ絵画400点以上、 ロシア・イコン、タピストリー、宗教的装飾品などのコレクションを誇ります。

ボッティチェッリ、マルコ・ドッジョーノ、アンドレア・デル・サルト、ソドマ、 ヴィンチェンツォ・カテーナ、パリス・ボルドン、ティントレット、 サッソフェッラート、ポンペオ・バトーニ、ジョヴァンニ・ランフランコ、 グエルチーノ、グイド・レーニ、ドメニキーノ、カルロ・ドルチ、ティエポロ、 サルヴァトール・ローザなどのイタリア人画家達。

ヘラルト・ダヴィト、クラナッハ、ハンス・フォン・アーヘン、ルーベンス、 ヴァン・ダイク、ヨルダーンス、リベーラ、スルバラン、ムリーリョ、 シモン・ヴーエ、フィリップ・ド・シャンパーニュ、ベンジャミン・ウエスト、 グスタフ・ドーレ、オーヴァーベックなどが居並ぶのですから壮観です。

まだ触れていなかった画家の中からマルコ・ドッジョーノを採り上げましょう。

マルコはミラノの近郊オッジョーノの生まれ。レオナルド・ダ・ヴィンチのように、 姓を持たなかったイタリアの一般庶民は出生地の名前を姓のように呼ばれました。 イタリア語では最初が母音で始まる場合、出生地を示す(ダ)がその母音と結合して マルコの場合はドッジョーノと呼ばれるのです。

彼についての情報は乏しく生没年も確定していないようですが、1475年頃生まれ 1530年(1549年という説もある)頃死亡したと考えられます。

1490年からミラノにいたレオナルド・ダ・ヴィンチの下で働き始め、 レオナルドの弟子達の中で筆頭格と見做されるようになります。

ミラノの中心にあるスカラ広場には,レオナルドの大きな立像があり, その台座の四隅に4人の弟子たちの彫像があります。 その内正面向かって左がチェーザレ・ダ・セスト,右がマルコ・ドッジョーノです。

ちなみに残りの2人はフランチェスコ・メルツィと ジャン・ジャコモ・カプロッティ(通称サライ、イタリア語で悪魔という意味)。

マルコは師のレオナルドのコピーが多く、ここにある「湖の聖母」も 中心構図は師匠の絵からの借り物ですが、色彩の美しさや、空と遠方の山々、 後方の景色には借り物でない、彼のオリジナリティが発揮されています。

他の幾つもの名画の中で一番インパクトがあったのはソドマの 「十字架を運ぶキリスト」でした。202 x 156cmの大作で渾身の力作です。 彼の最高傑作と言えるでしょう。

サッソフェラートの「受胎告知のマリア」はアントネッロ・ダ・メッシーナの それと同様、観る者の側に立つ大天使ガブリエルの存在を感じさせる名画です。

日本、いやアメリカでも全く知られていないのが信じられない素晴らしい美術館。