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美術館訪問記-30 ルーベ工芸美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:ルーベ工芸美術館内部

添付2:アングル作
「アンジェリカ」

添付3:アングル作
「グランド・オダリスク」
1814年 ルーヴル美術館蔵

添付4:ピエール・ボナール作
「バーンハイム夫人の肖像」

フランス、ルーベ(Roubaix)に「ルーベ工芸美術館」があります。 ルーベ市はベルギーに隣接しています。 ここはアールデコ様式の旧市営プールを改造した、 おそらく世界に一つしかない形の美術館。

名称も「ラ・ピシーヌ(La Piscine)」。ピシーヌはフランス語でプールのことです。

市役所近くの市の中心にあり、2001年の開館。 建築家はフィリッポンで、パリの昔の駅舎をオルセー美術館に生まれ変えさせた男。 ここではプールなればこその持ち味を存分に生かした 美術館へと見事に生まれ変えさせています。

美術館の真ん中に、幅を狭められてはいますが、いまだにプールが残っており、 常時水が流れています。 水面に映るアールデコのステンドグラスが美しい。 そのプールの一方の側には様々な彫刻家の手になる、男性の彫像、 もう一方の側には女性の彫像がズラリと並べて置かれています。

プールを取り巻く、昔シャワー室だった幾つもの小部屋は、陶器や家具、 装飾品、衣類、生地等の工芸品の展示室になっています。 ピカソとジャコメッティの共作という、使用可能なテーブル、 ピカソ作の大きな花瓶もありました。

絵画は流石に湿気を避けて、プールのある大空間とは別の建物に展示されています。 器だけでなく、内容も面白い。

アングルの「アンジェリカ」は岩に繋がれて助けを待つ裸女の絵で、 幾多の画家が手懸けていますが、アングルの作としてはルーヴルや モントーバンのアングル美術館で見た同主題のものの中では一番の出来。

ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル(1780-1867)はフランスの スペイン国境近くのトゥールーズの少し北にある町、モントーバンの生まれ。 17歳でパリに出て、後に皇帝ナポレオンの首席画家になる、新古典主義の画家、 ジャック・ルイ・ダヴィッドの門を叩きます。

21歳で新進画家の登竜門であるローマ賞を受賞。 国費でローマに留学し、期限後も肖像画を描いて生活費を稼ぎながら、 18年間もイタリアに滞在。ルネサンス期のイタリア古典を学び尽くしました。 この間もフランスのサロンには出展を続け、1824年、満を持して帰国。 大歓迎で迎えられ、翌年にはレジオンドヌール勲章を受けます。

イタリア時代に描いた「グランド・オダリスク」はご覧になった方も多いでしょう。 アングルはドガと並ぶフランス絵画史上最大のデッサンの名手と見做されており、 アングル美術館には4000点を超える彼のデッサンが保管されています。

古典の素養と類い稀なデッサン力を持ちながら、写実のみには拘らず、 彼は独自の美意識を追求しました。 「グランド・オダリスク」の女性の背中や腕は人としては有り得なく長く、 極端な、なで肩や肥大な臀部は解剖学を無視しています。 しかしそれらはアングルにとっては美が要求する必然だったのです。 この美を至上とし、現実に拘泥しない彼のスタイルは、当時の画家だけでなく、 後のピカソやマティスにも多大な影響を与えたのでした。

ルーベ工芸美術館には他にもファンタン・ラトゥールの水浴図、 マルケの波止場風景、ドンゲンの珍しい風景画の海を描いた小品、 デュフィの色彩が踊る3点、 ボナールの彼特有の色使いで暖かい、青い服を着て坐る女性像、 ヴュイヤールの自分の子供達を描いた愛情溢れた心和む絵等に加え、 ルドン、パスキン、レンピカもありました。

アルフレッド・ギス(1901-1973)という画家の「ローマのアトリエ」という、 日常家庭の縫い物をする女性とその傍で坐って遊ぶ子、 後ろに使用人らしき後姿という光景に、左手前にヴィーナスのポーズで横たわる 全裸の女性、右端にイーゼルという、 ティツィアーノとモランディ、バルテュスが混ぜ合わさった様な 不思議な静寂と不安を感じさせる作品にも強い印象を受けました。

有名な藤田嗣治のカフェでワイングラスを前に頬杖を突き、 考え込む女性の絵もここにあります。

(* 添付5:アルフレッド・ギス作「ローマのアトリエ」 および 添付6:藤田嗣治作「カフェにて」 は著作権上の理由により割愛しました。管理人)

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