美術館訪問記-296 デラウェア美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:デラウェア美術館正面

添付2:ハワード・パイル作
「首領の座を争う海賊たち」

添付3:ダンテ・ガブリエル・ロセッティ作
「リリス嬢」

添付4:フレデリック・サンズ作
「マグダラのマリア」

添付5:アルバート・ムーア作
「黄色の服の女性」

添付6:マリー・スパルタリ・スティルマン作
「愛のメッセンジャー」

添付8:ジョン・スローン作
「春の雨」

チャッズ・フォードから南に10km程の場所にデラウェア州ウィルミントン市が あります。アメリカ合衆国3大財閥の一つで、世界第2の化学会社である デュポン創業の地、本社所在地として知られる商業都市です。

前回触れたハワード・パイル(1853-1911)はこの地で生まれ、幼少時から 母親の手ほどきで絵画と文学に親しみ、美術学校に通います。

10代後半からイラストと物語を書き始め、ずば抜けた挿絵と力強い華麗な文章とで、 世間の注目を浴びるようになり、30歳で出版した「ロビンフッドの愉快な冒険」 は今日でも出版されており、国際的に評価されるようになります。

1894年からドレクセル大学でイラストレーションを教え始め、1900年には 自分の学校を設立。優秀な人材を輩出しました。N.C.ワイエスもその一員でした。

パイルは後進の指導に努める傍ら、雑誌や定期刊行物、児童書などに膨大な イラストレーションを描いた他、自身でも挿絵付きの多くの本を書きました。

1910年壁画研究の為イタリア、フィレンツェへ赴き、翌年病気で客死。

自己の画業以外にも幾多の人材を育てたパイルは広く尊敬されており、 彼の業績を称えるためにウィルミントンに1912年、「デラウェア美術館」が 設立されました。

美術館は樹々に囲まれた気持ちの良い所で、裏は彫刻庭園になっています。 赤いレンガ造りの2階建て。

入って右側最初の小部屋3部屋がハワード・パイルに充てられていました。

左側にある小部屋3部屋はアメリカ人画家が並んでいます。

続くこの美術館一番の大部屋は展示用に間仕切り壁でジグザグに仕切られており、 ラファエル前派の作品が並んでいます。ラファエル前派は第181回を参照下さい。

ここの品揃えは素晴らしく、英国以外では最大のラファエル前派のコレクションを 誇っています。

なにせロセッティ12点、ミレイ4点、バーン・ジョーンズ3点、 マドックス・ブラウン3点、フレデリック・サンズ2点、アルバート・ムーア1点、 ハント1点、というのですから。

ラファエル前派では最高の女流画家、マリー・スパルタリ・スティルマンの代表作 「愛のメッセンジャー」もありました。

これらは大半がウィルミントンで織物業で財を成したサミュエル・バンクロフトの コレクションで彼の遺族が1935年、11エーカーの土地もろとも寄贈したもの。

チャールズ・マレーというジョン・ラスキンのアシスタントで ウィリアム・モリスの下で働いた画家がバンクロフトの友人兼アドバイザーとして 彼のコレクション作成に寄与しています。

マレーの模写した、一目本物かと思ったロセッティ原作の 「ベアタ・ベアトリックス」も展示されていました。

2階に上がると、ホッパーの「夏の日」という、白いワンピースで白の帽子の 若い女性が建物の入口の階段の上で夏の強い日差しを浴びている、 臨場感のある作品が目に入りました。

隣の部屋は20世紀初頭のアメリカでのリアリズム絵画を代表する画家の一人 ジョン・スローンと彼の仲間ザ・エイト用。

スローンは11点もありました。それもその筈、カタログ本によるとスローンの 未亡人がスローンの油彩、プリント、デッサン等3000点以上を寄贈したのだとか。

この美術館は展示室は17室とそれほど大きくはありませんが、 個性のハッキリとした得がたい美術館の一つです。

ブックショップでカタログ本とデラウェア美術館のラファエル前派本を買って パラパラめくると、バーン・ジョーンズの眠り姫のシリーズの大作1点が 目に飛び込んで来ました。眠れる王と兵士達の絵です。

第87回のバスコット・パークで観たものと同じです。こんなものまであるとは。

丁度通りがかった学芸員にこの絵がどうなっているか聞くと、 配置換えのため倉庫に入っている。バーン・ジョーンズはこの絵を4作描き、 そのうちの1作なのだと言います。

バスコット・パークでは観たのだが、ここでも観たかったと言うと、 倉庫には後ろ向きに入れてあり、その前にも他の作品があるので、 見せたいがチョット無理だと言いました。残念ですが、礼を言って出ました。

(添付7:エドワード・ホッパー作「夏の日」は著作権上の理由により割愛しました。
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