美術館訪問記-289 アルケン近代美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アルケン近代美術館外観

添付2:アルケン近代美術館内部

添付3:ゴーギャン作
「ウパ・ウパ (初めてのダンス)」 
イスラエル美術館蔵

添付4:ピサロ作
「ジーンの肖像」 
イスラエル美術館蔵 

添付5:セザンヌ作
「川沿いの家」 
イスラエル美術館蔵

添付6:ルノワール作
「M.レストリンゲスの肖像」 
イスラエル美術館蔵

添付7:ゴッホ作
「コーンとヒナゲシ」 
イスラエル美術館蔵

添付8:ボナール作
「食堂」  
イスラエル美術館蔵

コペンハーゲン中央駅から快速電車で南へ2駅、各駅停車だと10駅目にイスホイと いう町があり、この駅からバスで5分の場所に「アルケン近代美術館」があります。

1996年開館で、典型的なデコン建築。

デコンとはデコンストラクションの略で、脱構築主義とも言われ、近代建築の 「形態は機能に従う」という概念を否定し、「ある対象を解体し、それらのうち 有用な要素を用いて、新たな、別の何かを建設的に再構築すること」という 哲学用語から来ており、1980年代後半から現代の建築業界を席巻して来ています。

第84回のビルバオ美術館、第89回のオードロップゴー美術館もデコン建築です。

アルケン近代美術館はソーレン・ロバート・ルンドの作品で彼が25歳、 まだ学生だった1988年、コンペにより勝ち取った作品です。 円弧と直線からなる平面形を持つ中央空間の大きい展示場所があり、長辺は150m。

入ると直ぐ中国の古びた電車が1台置いてあり、窓ガラス一つ一つが スクリーンになって白黒のそれぞれ違う映画を映し出していました。

スピーカーで中国音楽やお経の音が流れています。電車の通路を歩きながら 次々に変わる両側のスクリーンに映し出される古い中国の画像を見ていると、 何か日常を逸脱した不思議な感じに捉われました。

これだけは面白かったのですが、現代美術にはあまり興味を持てない私が、 次々と現れる、どう見ても芸術とは感じられないインスタレーションに ウンザリしながら歩いていると、突如砂漠の中のオアシスのような 素晴しいゴーギャンの絵があるではありませんか。

「ウパ・ウパ (初めてのダンス)」と題された、燃え盛る火の周りで踊るタヒチ人と 座ってそれを見物するタヒチの人々を描いています。

皆、服をキチンと着て、今まで全く本でも見たことの無い絵です。 どうしてここに私の知らないゴーギャンの絵があるのかと思ったら、 イスラエル美術館から印象派主体の53点が来ての特別展開催中なのでした。

イスラエル美術館は、それまで日本に紹介されてなかったと思いますが、 来ているピサロ、セザンヌ、モネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホ、ボナール、 どれも初めて見る絵ばかり。しかも逸品揃い。 いっぺんに疲れが吹き飛び、心が昂揚して来たのですから現金なものです。

ピサロの「ジーンの肖像」がありました。黄色の服を着て黒髪の若い女性像。 ピサロの肖像画は珍しい。ピサロの風景画には、これと特定できる強力なものは ありませんが、この絵は一度見たら忘れそうにありません。

購入した特別展英語本によると、ピサロはユダヤ系のデンマーク人で、 そのためイスラエル美術館の所蔵作品は11点、他のどの画家よりも多いそうです。

唯一人8回の印象派展全てに参加した彼は、てっきりフランス人と思われるかも しれませんが、カリブ海のデンマーク領セント=トーマス島生まれなのです。

セザンヌの「川沿いの家」は 3つの異なる手法で描いています。 中央の家は写実的にキチンと描き、両側の木々は粗く薄塗りでタッチを残します。 中央上と下の空と水は印象派のように異なる色を置いて 視覚混合を意図しています。

ルノワールの肖像画の傑作「M.レストリンゲスの肖像」もありました。

ゴッホの「コーンとヒナゲシ」も中央にそそり立つ荒いタッチのコーンと 群舞するヒナゲシの強い赤。観た事のなかった傑作です。

一目でそれと判るボナール特有の黄橙色横溢の心弾む情景を描いた「食堂」も 素晴らしい。

何せ初めて目にする絵ばかりですから、どれも新鮮で、こうして書いて行くと 53点全てを列挙する事になってしまうのでこのへんまでにしましょう。

特別に晩年のモネとルノワールを別々に映した10分ほどの白黒の無声映画を 上映していました。二人とも長い白髭を蓄えています。

ジベルニーの睡蓮を描く、麦藁帽を被り煙草を銜えたモネ。

リュウマチで指は動かず、拳を握り締めたままのルノワール。 絵筆を、握った拳に通して絵を描いています。合間に煙草を銜えながら、 隣に座った若い男と盛んに話していました。