美術館訪問記-276 ジョン・アンド・メイブル・リングリング美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ジョン・アンド・メイブル・リングリング美術館

添付2:ジョン・アンド・メイブル・リングリング美術館と中央庭園

添付3:ジョンの家

添付4:ジョン・アンド・メイブル・リングリング美術館内部

添付5:ドメニコ・ギルランダイオ作
「聖母子と洗礼者ヨハネ、3天使」

添付6:パオロ・ヴェロネーゼ作
「エジプトへの逃避中の休憩」

添付7:フランス・ハルス作
「ピーター・オリカンの肖像」

添付8:ルーベンス作
「フェルディナンド大公の肖像」

添付9:トーマス・ゲインズバラ作
「フィリップ・ハニーウッド陸軍中将」

添付10:ロバート・ヘンライ作
「サロメ」

セントピーターズバーグから40kmほど南にサラソータという人口5万人余りの 町があり、ここにも素晴らしい美術館があります。

その名は「ジョン・アンド・メイブル・リングリング美術館」。

20世紀初頭ジョン・リングリングはリングリング・ブラザーズ・サーカスを兄弟で 経営していました。テレビや映画のない時代にサーカスは娯楽の殿堂であり、 当時の世界最大のサーカス団を率いていた兄弟は巨万の富を築いたようです。 ジョンは当時アメリカでも突出した大富豪の一人でした。

ちなみに1952年に公開された米国映画「地上最大のショウ」は、 このリングリング・ブラザーズ・サーカスが舞台になっています

ジョンは妻のメイブルと連れだって、ニューヨークやロンドンで開かれる 美術品オークションの常連となり、豪華なコレクションを作り上げます。

リングリング家は冬も温暖なサラソータに広壮な別荘を構えており、 二人はそこに彼等のコレクションを展示すべく美術館を建設。

フィレンツェのウフィッツィ美術館を模した構造で、ウフィッツィにはない 秀麗な中庭の中央にはミケランジェロ作のダビデ像複製をブロンズ像として設置。 周りや屋根に古代ギリシャ、ローマ時代の彫像を並べました。

折からの世界恐慌でサーカス経営は苦しくなり、メイブルも1929年に死亡。 ジョンは何とか美術館を完成して1931年に開館。

ジョンも1936年に死亡。土地と美術館をフロリダ州に遺贈します。

その後美術館はほとんど日の目を見ることなく推移し、最終的にフロリダ州は 2000年に美術館の管理運営をフロリダ州立大学に移管します。

その後5600万ドルを市民や州民から募り、総額7600万ドルをかけた修復が 2007年に完成し、今や全米でも16番目に大きい美術館へと変貌しています。 広大な敷地内には美術館の他にジョンの家や劇場、サーカス博物館も建っています。

私は2001年に訪れたのですが、修復前のその時でも、アメリカの建物とは思えない イタリアかスペインの王宮に迷い込んだような錯覚を覚えるほど豪奢な邸宅と 美術館で、とても一個人が建設したものとは思えない規模でした。

美術館内部に入って息を呑みました。コレクションの質・量とも素晴らしく、 この美術館が日本では全く知られていないのが信じられません。

キプロス島からの発掘品から、絵画、彫刻、デッサン、版画、写真、装飾品まで 所蔵作品数は優に1万点を超えているのだとか。

ギルランダイオ、ピエロ・ディ・コジモ、ティツィアーノ、ヴェロネーゼ、 ガウデンツィオ・フェッラーリ、ベルナルド・ストロッツィ、グエルチーノ、 ピエトロ・ダ・コルトーナ、サルヴァトール・ローザ、ルカ・ジョルダーノ、 ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ、フランチェスコ・グアルディ等、 イタリア絵画だけでも、日本中の美術館を束にしてもこんなには揃いません。

これにクラナッハ、ルーベンス、ヴァン・ダイク、ヨルダーンス、ハルス、 ステーン、グレコ、ベラスケス、リベーラ、シモン・ヴーエ、プッサン、 ラムゼイ、ゲインズバラ、ベンジャミン・ウエスト、ジョシュア・レイノルズ などが加わるのですから。

特にルーベンスは10作もあり、大作・傑作が多い。

大作と言えばトーマス・ゲインズバラの「フィリップ・ハニーウッド陸軍中将」は サイズが327.5 x 300.4cmもあり、彼の作品中最大の絵画です。

オールド・マスターだけでなく、ブーダンやロバート・ヘンライ等の 近代絵画もありました。