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美術館訪問記-26 タフト美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:サージェント作
「マダムX」
メトロポリタン美術館

添付2:タフト美術館正面

添付3:タフト美術館内部

添付4:ソローリャ作
「タフト大統領」

添付5:ゲインズバラ作
「乳搾りの娘のいる風景」

添付6:ゲインズバラ作
「マリア・ウォルポール公爵夫人」

添付7:サージェント作
「ロバート・ルイス・スティーブンソンの肖像」

前回サージェントの肖像画に触れました。 第12回でもサージェントの「ガードナー夫人の肖像」を添付しました。 これらの作者、ジョン・シンガー・サージェントも興味深い画家です。

彼はアメリカではアメリカ人肖像画家の代表として扱われ、 イギリスではロンドンにあるナショナル・ポートレート・ギャラリーに 68点もの作品が所蔵中の、イギリスを代表する肖像画家として遇されています。

これは彼の経歴に起因しています。 1856年にイタリア、フィレンツェでアメリカ人医師の長男として生まれ、 18歳までを主にイタリアで過しました。 母が病弱で転地療養のためアメリカからヨーロッパに来ていたのですが、 長男誕生を機にそのまま住み着いてしまい、父は仕事を辞め、 家族でイタリア、フランス、ドイツ、スイスを旅しながら過したのです。

サージェントは家庭教育以外の教育は受けないままで育ち、素人画家だった母は 息子を美術館や名画の残る教会に連れ歩き、 最高の美を理解させる事が最善の教育だと信じていました。

サージェントは英伊仏独語を自由に操る国際人となり、 18歳からはパリで絵を学ぶべく官立美術学校に通います。 その語学力と天才的な素描の才で直ぐに頭角を現し、ドガやモネ、ホイッスラー、 ロダン等とも面識を持つようになった彼は、1877年にはパリのサロンに初入選。

肖像画家として人気の出てきた彼は、1884年「マダムX」でスキャンダルを 引き起こす事になります。 人妻の肖像画としては、官能的過ぎ、品位に欠けるという批判にさらされました。 モデルになった社交界の花形だった夫人との仲まで疑われる始末。 直後に本人が修正していますが、 最初は右の肩紐が腕にかかるように垂れていました。

今では誰しもがサージェントの最高傑作と認める、この肖像画に心血を注いだ彼は、 自信作が否定されたこともあり、スキャンダルを逃れてロンドンに移り住み、 以後ロンドンをベースにアメリカとイギリスで仕事を続け、1925年ロンドンで死亡。 アメリカではガードナー夫人のサロンにも出入りしていました。

アメリカ中部にある珠玉の様な美術館にもサージェントの作品がありました。 オハイオ州シンシナティにある「タフト美術館」。

タフトと聞くと第27代アメリカ合衆国大統領タフトを思い出す人も多いでしょう。 ワシントンのポトマック河畔に日本から桜を寄贈した時の大統領です。

彼はシンシナティの出身で、この美術館は彼の兄第、 チャールズ・タフトの妻アンナの父の持ち物でした。 アンナとチャールズは名代の美術収集家で、父から受け継いだこの家を 彼等のコレクションで満たし、アンナは1931年の死亡時に、 シンシナティ市に家ごと全てを遺贈したのです。 タフト美術館は1932年開館。 2004年に地下車庫と特別展用のビルを後部に接続して リニューアル・オープンしました。 美術館の前庭や中庭も美しい花々の咲き乱れる庭園ですが、 道を隔てた前にも公園があり、 その後ろにはシンシナティの高層ビルが聳えています。

入口は新ビルの方にあり、階段を上がって、 廊下を少し進んだ所から昔の邸宅になります。 どの部屋も中国製の陶磁器や英国製の装飾品で飾られ、 暖炉が付いている部屋も多い。 床には厚い絨毯が敷かれている。飾り棚の無い壁には絵が掛けられている。 イギリスの貴族の館を思い出しました。

最初に目に入ったのはソローリャ作の肖像画です。 日本ではソローリャは余り知られていませんが、 欧米の美術館ではよく目にするスペインの近代画家です。 マドリードには彼の自宅がソローリャ美術館として公開されています。 そういえば、ソローリャ美術館も美しい庭園が印象的でした。

突き当りの壁にはゴヤの作品があります。タフト夫妻はスペイン美術がお好みかと 思ったら、スペイン画家の作品はこの2点だけ。 後はテオドール・ルソー、ロイスダール、ホッベマ、ゲインズバラ、ターナー、 コロー、ジェム等の風景画、ゲインズバラ、レイノルズ、ラエバーン、 ホップナー、ハル、レンブラント、ホイッスラー等の肖像画。

アメリカではあまり見ないアングル作の肖像画もありました。 ゲインズバラの風景画と肖像画が共に秀逸でした。

サージェントの「ロバート・ルイス・スティーブンソンの肖像」もありました。 あの有名な「宝島」や「ジキルとハイド」を書いた作家です。二人は親友でした。

ステーン、デ・ホーホ、ミレーやアルマ・タデマ等もあり、密度の濃い空間です。 看視人もイギリスの執事のような服装をした老人が多く、風格を感じます。 特別展では「アメリカ人印象派画家と庭」を開催中。 タフト美術館の庭と呼応するかのように、展示場内には明るい花々が咲き乱れ、 アメリカ人の印象派画家はチャイルド・ハッサムかジュリアン・ウィアー ぐらいしか頭になかった私は、その多彩さに目を見開かせられたのでした。

美術館訪問記 No.27 はこちら

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