美術館訪問記-247 神戸市立小磯記念美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:パオロ・ヴェロネーゼ作
「カナの婚礼」 ルーヴル美術館蔵

添付2:神戸市立小磯記念美術館

添付3:美術館中庭に設置された小磯のアトリエ

猪熊弦一郎と同年、1903年に神戸で生まれ、東京美術学校で同じ藤島武二の下で 学んだ小磯良平のための美術館が、遊学以外は生涯を過ごした神戸にあります。

「神戸市立小磯記念美術館」。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の1年後、1992年開館。

小磯良平は東京美術学校在学中の作品が当時最も権威のあった帝展で特選獲得、 卒業制作でも史上最高得点を獲得し、首席で卒業。

卒業後の1928年、渡仏しています。猪熊より10年早い。22歳で父を亡くし、 望まれて養子に入った遠縁の小磯吉人が大日本製薬社長だったのも大きい。

フランスやイタリア、スペインなどヨーロッパ各地の 美術館、画廊等を巡って巨匠たちの名画を研究し、 「ヨーロッパの古典的な技法を歴史の浅い日本の洋画に根付けさせる」 ということへの使命感を抱き、帰国後も長年にわたってそれを実践しました。

またルーヴル美術館で観たヴェロネーゼの「カナの婚礼」に衝撃を受け、 日本人が得意でない群像表現を極めることを生涯のテーマとしています。

2年間の滞在で帰国後、猪熊弦一郎達と共に新制作派協会を立ち上げ、 純粋芸術の確立を旗印に幅広い活動を続けています。

群像表現を極める機会と捉え1年間藤田嗣治らと共に従軍画家として中国に渡り、 帰国後戦争画を製作した事が心痛事だった以外は順調な生涯で、 戦後東京芸術大学教授に就任、文化勲章も受章し、功成り名遂げた生涯でした。

1988年死亡。享年85。翌年遺族より油彩91点、素描346点、版画204点、 挿絵原画1453点、総計2094点が神戸市へ寄贈され、 3年後に神戸市立小磯記念美術館が開館します。

神戸沖の緑豊かな人工都市、六甲アイランド内にある、個人の為の美術館としては 立派で、移築・復元された小磯のアトリエを含む大規模な美術館です。

館内には3つの展示室と110型大画面でハイビジョン映像を鑑賞できる ホールがあり、そこでは週末、小磯良平の画業や代表的な作品を紹介しています。

卓越したデッサン力をもとに清楚な女性像をはじめ、静物、群像図など 西洋絵画の伝統の中に、市民的でモダンな感覚と気品あふれる画風が気持ち良い。

小磯は素描について「柔らかい鉛筆で無造作に引かれた線は、仕上がった絵よりも いつも面白く、何か生き生きしているものである。例え出たらめと思われるような、 無駄と思われるような線でも、不思議と効果があるようで、捨て難いものである」 と、言っています。

ここに来て初めて知ったのですが、小磯は武田薬品の機関紙の表紙画として 13年間に渡り薬用植物画を描き続けており、それらの絵にもみずみずしい 生命の輝きと凛とした気品が感じられるのでした。

また美術館開館の年に創設された「小磯良平大賞展」は優勝賞金1000万円で 国内最高賞金の公募展として知られています。

(添付4:小磯良平作「自画像」1926年、添付5:小磯良平作「踊り子」1940年、添付6:小磯良平作「働く人」1959年、添付7:小磯良平作「母子像(A)」1954年、添付8:小磯良平作「ヤブツバキ」1962年は著作権上の理由により割愛しました。
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