美術館訪問記-238 フィリップス・コレクション 

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付2:トゥールーズ=ロートレック作
「メイ・ミルトン」 1895年

添付3:フィリップス・コレクション外観

添付4:ボナール作
「早春」

添付5:ロスコの部屋

添付6:ルノワール作
「舟遊びの昼食」 1881年

添付8:アングル作
「水浴する子供」

添付9:ゴーギャン作
「ハムのある静物」

添付10:マティス作
「エジプト風カーテンの室内」

ロートレックと言えば、自室にロートレックのポスターが飾ってある ピカソの絵を見つけて、天才は天才を知ると妙に納得した事がありました。

もう27年前、1989年にワシントン、「フィリップス・コレクション」を 初めて訪れた時の事です。

その絵は「青い部屋」。ピカソ19歳、青の時代の始まりの年に描かれた絵です。

画中画として飾ってあったのは「メイ・ミルトン」。 メイ・ミルトンはイギリスの踊り子でアメリカ巡業に旅立つ前にロートレックに 依頼して作成したポスターです。

ピカソが友人に宛てた手紙が残っています。 「パリに出てみて、ロートレックがどんなに偉大な画家であるかが分かった」

フィリップス・コレクションはワシントンの高級住宅地にあり、 ホワイトハウスから2km程北北西に位置します。

当時流行のジョージ王朝復古様式で建てられた邸宅に、 鉄鋼業で財をなした家系の3代目、ダンカン・フィリップが、画家だった 妻のマージョリー・アッカーと共に築きあげたコレクションを展示してあり、 開館は1921年。ダンカン35歳の時でした。

これはアメリカの私有美術館の先駆けで、この後に富豪が自分のコレクションを 公開する美術館が各地に続く事になりました。

またこの美術館はアメリカ最初の現代美術館でもありました。

ダンカンは資産家ながら美術評論家として数々の著書を残した博識のコレクターで、 当時の現代美術にも深い理解力を持ち、ヨーロッパ絵画の収集は勿論、 同時代のアメリカ人画家達の作品を積極的に購入し, 後にアメリカの代表的な画家として認められる若い芸術家達を支援したのです。

1960年には収集品は2500点を超え、別館を建て増しています。

この美術館は私有美術館には珍しく、平日は無料。寄付金は歓迎ですが。

別館が入口になっており、階段で展示場のある2階に上がります。 途中の壁にボナールが1点だけ掛かっていました。

「早春」で、いかにもボナールらしい、心が静かにほどけて行くような、 ゆったりとしてのどかないい絵です。

2階入って直ぐの右手に「ロスコの部屋」があり、 小さな部屋の四方の壁に1点ずつロスコの絵が掛っていました。

美術館は所蔵作品を年代順や国別、派別などに分類展示してあるのが多いのですが、 ここはダンカンの見識を反映するかのように、作品それ自体の調和を目的として 普通の分類展示には関係なく展示されています。

富豪で美術の著作も多かったバーンズ博士のコレクションを展示した 第11回のバーンズ・ファウンデーションも同じような展示方法です。

ここにはエル・グレコのような古典から現代絵画まで多くの名画がありますが、 筆頭にあがるのはルノワールの「舟遊びの昼食」でしょうか。

この友人たちとの賑やかな昼食を明るく、心から楽しみながら描いた絵を最後に ルノワールは生涯に一度の創作の袋小路に迷い込んで行くのです。

ルノワールは語っています。「私は印象主義の果てまで歩き、 もはや色で描く事も線で描く事も出来なくなった事に気付いた」

この絵の左端に描かれたアリーヌ・シャリゴと正式に結婚した1890年頃、 漸く迷いから抜け出し、色でも線でも描く彼独特の世界を造り出して行きます。

ちなみにこの画面右側手前には、画家ギュスターヴ・カイユボットが椅子に座り、 女優エレン・アンドレと談笑しています。

ここは個人の邸宅だったので、小部屋が多いのですが、私が最後に訪れた4年前は この名画の部屋に幼稚園児の団体客が20人ぐらい座り込んで占領し、 引率者が延々と話をして長時間動かないのには弱りました。

この日はジェイコブ・ローレンス(1917-2000)の代表作「黒人の移住」シリーズ 60点の内25点も展示してありました。

ジェイコブはアフリカ系アメリカ人で、黒人の両親の体験に基づいて描かれた このシリーズは画商のエディス・ハルパートの肝煎りで雑誌フォーチュンに載せ、 彼女のニューヨーク、ダウンタウン画廊で展示した後、ダンカンが奇数番号を、 ニューヨーク近代美術館が偶数番号を買い取ったというものです。

ジェイコブは1940年から41年にかけて描いたこのシリーズにより、若くして 白人中心の美術界で不動の名声を得た数少ない黒人画家として生き抜いています。

他にもアングルの「水浴する子供」、セザンヌの自画像、ココシュカの風景画、 ゴーギャンの「ハムのある静物」、ドガの「憂鬱」、デュフィの4点、 マティスの最後の油彩画「エジプト風カーテンの室内」等が印象に残っています。

(添付1:ピカソ作「青い部屋」1901年、添付7:ジェイコブ・ローレンス作「黒人の移住」シリーズの一点 は著作権上の理由により割愛しました。
 長野さんから直接メール配信を希望される方は、トップページ右上の「メール配信登録」をご利用下さい。 管理人)