美術館訪問記-223 サンタ・フェリチタ教会

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:サンタ・フェリチタ教会正面

添付2:サンタ・フェリチタ教会内部主祭壇側から入口をみたところ
2階にヴァザーリの回廊が通っている。左下の明るい所がカッポーニ礼拝堂

添付3:ポントルモ作
「キリスト降架」

添付4:ミケランジェロ作
「ピエタ」
ヴァティカン市国、サン・ピエトロ大聖堂蔵

添付5:ブロンズィーノ作
「聖マタイ」

添付6:ポントルモ作
「聖ヨハネ」

添付7:ポントルモ作
「受胎告知」

添付8:ネーリ・ディ・ビッチ作
「サンタ・フェリチタと子供達」

イタリア、フィレンツェにはポントルモ作品が観られる場所が幾つもありますが、 中でも、最高傑作と言われるのはフィレンツェの街を縫って流れるアルノ川近く、 ウフィッツィ美術館からヴェッキオ橋を渡った場所にある 「サンタ・フェリチタ教会」にあります。

この教会の正面入り口前には2階建ての建物があり、これがヴァザーリの回廊で、 ピッティ宮殿に住んでいたトスカーナ大公一族が、道路を通らずに 当時は役所だったウフィッツィ美術館へ行くための通路だったのです。

ウフィッツィはイタリア語で役所という意味です。 建物の機能がそのまま美術館の名前になった珍しい例です。

ちなみにこの回廊のサンタ・フェリチタ教会側には開放部があり、トスカーナ大公 一族の人達はこの回廊にいながらミサに出席する事ができるようになっていました。

この教会はフィレンツェでも最古の教会の一つで、4世紀から5世紀に創設。 紀元2世紀にいたとされるローマの聖フェリチタに捧げられた教会です。

入口を入って直ぐ右のカッポーニ礼拝堂に ポントルモの傑作「キリスト降架」があります。 ポントルモ32歳の時の作で313 x 192cmの油彩画の大作です。

この絵はマニエリスムの極致とも言える絵で、十字架から降架されるキリストを 描きながら、十字架は描いていない。そのため軸となる拠り所がなく、 人々は宙に浮遊するようで、螺旋状の不安定な構図になっています。

人々の着衣は、非現実的に鮮やかな空色やピンク、緑、赤、黄色で、 その色彩も、まるで重力を失って漂うような、不安で浮遊するような精神を 洗練されて優美な形態と共に強調しています。

安定と調和のルネサンスと決定的に異なる絵画世界は ここから始まったと言えるでしょう。

キリストの姿態と異常に若い聖母マリアの艶やかな顔は ミケランジェロの傑作彫刻「ピエタ」を想起させ、ここにも ミケランジェロから受けた強い影響を感じます。

この図と天井の間の四隅にブロンズィーノの「聖マルコ」、「聖マタイ」と ポントルモの「聖ヨハネ」、「聖ルカ」が配されています。 しかしこの礼拝堂は締め切られていて、鉄格子越しにしか観る事はできません。

聖マルコ、聖マタイ、聖ヨハネ、聖ルカはそれぞれ 新約聖書に収められている四つの正典福音書の記者。

他の礼拝堂にポントルモのフレスコ画「受胎告知」、 聖具室にはタッデオ・ガッディ作とされる14世紀の多翼祭壇画「聖母子と聖人達」, ネーリ・ディ・ビッチの「サンタ・フェリチタと子供達」等もありました。