美術館訪問記-221 ヨハネ・パウロ2世美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ヨハネ・パウロ2世美術館外観

添付2:ヨハネ・パウロ2世とカルロ=ポルチェンスキー博士夫妻、1987年

添付3:ポントルモ作
「聖母子」

添付4:ベラスケス作
「自画像」

添付5:レンブラント作
「髭のある男の肖像」

添付6:ナティエ作
「花の神フローラに扮する女性」

添付7:ブグロー作
「ヴィーナスとキューピッド」

添付8:ルノワール作
「カリフラワーとザクロ」

添付9:ポントルモ作
「聖母の訪問」
サンティッシマ・アンヌンツィアータ教会蔵

ポーランドの首都ワルシャワには訪れる価値のある美術品のある施設が幾つか ありますが、その中で最も見過ごされているのが「ヨハネ・パウロ2世美術館」。

今はどうか知りませんが、私達が訪れた8年前は、道を尋ねた何人かの ポーランド人も、誰も聞いたことがないというぐらいで、何の標識もなく、 住所だけを頼りにやっと辿り着いたのですが、中は広く、 コレクションは素晴らしく、我々二人だけで占有するのが申し訳ない感じでした。

ここにある450点もの名画はポーランド人ながら、第二次大戦後イギリスに住んだ 著名な化学者、カルロ=ポルチェンスキー博士が、美術史を専攻したヤニナ夫人と 二人だけで収集したというのですから、驚嘆すべき事柄です。

二人は1986年、これらの収集品を教会と国に寄贈。 国は、ポーランドで個人としては最大、最高のコレクションを、 1829年に建てられた由緒ある旧国立銀行ビルディングに収納して、1989年公開。

当時在位していた、ポーランド人で455年ぶりの非イタリア人教皇にして 史上最初のスラヴ系教皇、ヨハネ・パウロ2世の名を冠した美術館としたのです。

目を見張るのは、コレクションの素晴らしさ。 クラナッハやレンブラント、ティントレット、ヴァン・ダイク、リベーラだけでも 凄いのですが、これらはポーランドの他の美術館にも所蔵されていました。

今迄ポーランドには存在しなかった、ティツィアーノ、ポントルモ、ベラスケス、 ルーベンス、レイノルズ、レイバーン、ローレンス、ブーシェ、ゴヤ、コロー、 ルノワール、ゴッホ、シスレー、ドラン等錚々たる絵画も含まれているのです。

いくら大戦後の混乱期だったとはいえ、ほとんど身一つでイギリスに逃れ、 イギリスの大学で学び、博士号を取った化学者夫婦が、 これだけのコレクションを造り上げたという事は賛嘆せざるを得ません。

特に驚いたのは、イタリア以外ではルーヴルやロンドンのナショナル・ギャラリー 等の大美術館でしか見る事のない、ポントルモがあった事です。

ポントルモ(1494-1557)は本名ヤコポ・カルッチ。 フィレンツェ近くのポントルメの生まれなのでポントルモと呼ばれました。

彼はアンドレア・デル・サルトの弟子で、早くから非凡な手腕を発揮しました。 師匠の手伝いでフィレンツェのサンティッシマ・アンヌンツィアータ教会に 描いた「聖母の訪問」がミケランジェロに賞賛され、デル・サルトが嫉妬し、 破門されてしまったという逸話があります。

そのためもあってかミケランジェロやデューラーの影響を強く受けており、 長く引き伸ばされた人体や不自然な姿勢、非現実的に鮮やかな色彩、 螺旋状の不安定な構成、故意に乱されたバランス等、 マニエリスムの第一人者として活躍するのです。