サンディエゴ美術館のすぐ隣に「ティムケン美術館」があります。
サンディエゴ美術館とは対照的に、近代的な白大理石の建物で、 平べったい箱の形をしています。
ここは私立の美術館には珍しく入場無料。1965年の開館。
中は意外と小さく、5部屋しかありません。しかし、小規模な美術館の中では、 全米でも1、2を争うコレクションの質だと言われています。
アンとアミーという生涯未婚だった富豪のパットナム姉妹は美術に造形が深く、 絵画のコレクションを続けており、サンディエゴ美術館にある スペイン美術のほとんどとイタリア美術の大部分は二人からの寄贈です。
しかし1950年になってサンディエゴ美術館と袂を分かち、 それ以降のコレクションはアメリカ中へ貸し出される事になりました。
サンディエゴ美術館の礎を築いたティムケン家が寄贈した資金で この美術館が建てられ、姉妹の死後全米に散っていた二人のコレクションが ここに集められたのです。
収蔵品はオールド・マスターとロシアのイコン、アメリカ美術から構成されます。
先ずジョヴァンニ・アントニオ・ボルトラッフィオの「矢を持つ若者」が 目に留まりました。一目でレオナルド・ダ・ヴィンチの弟子と判る作風ですが、 画家の育ちのよさが滲み出ており、好感が持てました。
続いてバルトロメオ・ヴェネトの「緑色の服を着た婦人」、 ヴェロネーゼの「聖エリザベスと幼子洗礼者ヨハネといる聖母子」、 ピーテル・ブリューゲル父の「種まく人の寓話」、 レンブラントの「聖バルソロミュウ」と傑作が並びます。
特にブリューゲルの作品は1557年作と今に残る彼の作品では最初期のものの一つ。
ニコラ・ド・ラルジリエール(1656-1746)の目の覚めるような肖像画もありました。
彼は女性肖像画を得意にし、同時代に男性肖像画を得意にしたリゴーの ライバルかつよき友人だったようですが、アメリカ人好みと見えて、 アメリカの美術館ではかなりの確率で見かけます。
他にもムリーリョ、ルーベンス、クロード・ロラン、ブーシェ、コロー等が それぞれの持ち味を出した作品が揃い、サンディエゴ美術館への寄贈品共々 パットナム姉妹の鑑識眼の高さを示しています。
アメリカ人画家の収集にもその鑑識眼は遺憾なく発揮されており、 ジョン・シングルトン・コプリー(1738-1815)の「トーマス・ゲイジ夫人」は 数ある彼の作品の中では一番の傑作だと思われます。 人物が生きて呼吸しています。
コプリーはボストンの生まれで、子供の頃から画才を発揮し、 19歳でプロの肖像画家として活躍し始め、数多くの肖像画を残しています。 36歳で独立戦争を避けイギリスに渡り、肖像画家、歴史画家として成功しました。
アルバート・ビアスタット(1830-1902)の「ヨセミテの瀧」も 彼の典型的な風景画の一つです。
ビアスタットはアメリカのハドソン・リバー派の代表的な画家で、 ドイツ生まれで両親と米国に移住し、その後3年間ドイツアカデミーに留学し、 北アメリカ西部の山並みなどの大自然を初めて描いた 米国で最も有名な風景画家の一人です。
米国西部などをスケッチ旅行し多くの作品を残しています。 コプリーとビアスタットの作品は注意深く見れば、ほとんどアメリカ中の美術館で 目にする事になるでしょう。