美術館訪問記-197 アム・シュタインホーフ教会

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アム・シュタインホーフ教会外観

添付2:アム・シュタインホーフ教会上部

添付3:4体の天使

添付4:アム・シュタインホーフ教会内部

添付5:アム・シュタインホーフ教会内部

添付6:コロマン・モーザー作のステンドグラス

添付7:コロマン・モーザー作
「洞穴のヴィーナス」
ウィーン、レオポルト美術館蔵

添付8:バス停にあった体重測定器

オーストリアもまだ二つしか採り上げていませんでした。

首都ウィーンには、私が行った限りでは、27の観るべき美術館、教会、施設が ありますが、その中に、まず行かれた方は少ないと思われる教会があります。

というのも、この教会が観光客に開放されるのは、週に一度だけで、 土曜日の午後3時からドイツ語のみのガイドツアーを行っているのです。

4時からは個人見学可能で、長い説明抜きで見学できます。

この教会の名は「アム・シュタインホーフ教会」

設計者はオットー・ワーグナー(1841-1918)。

「芸術は必要にのみ従う」という名言を残し、 機能性・合理性を重視する、近代建築の理念を追求した、鬼才です。

私は建築にはあまり興味がないのですが、この教会は素晴らしかった。

ユーゲントシュティールの美意識が隅々まで行き渡り、まるで宝石箱のよう。

これだけ優雅な教会は世界に類がありません。

寺院ではタージ・マハル、教会ではアム・シュタインホーフ教会が、 世界最高の建築美だと、感銘を受けたのです。

教会は、ウィーンの中心部から6km程西、郊外の丘の上の精神病院の中にあります。

精神病院の門を入り、砂利の坂道を一番上まで登ります。

1904-1907年に建てられた当時は、ウィーンの人々には奇抜過ぎて、理解されず、 「狂った人のための教会」と嘲笑されたのだとか。

1世紀が過ぎた今では、ドイツ語圏で花開いた世紀末芸術、 ユーゲントシュティール(青春様式)の傑作の1つと見做されています。

外観は、角張った基盤の上に、金色に光る優美な釣鐘状のドームが置かれた形を しており、外周にはユーゲントシュティール様式の様々な飾りがつけられています。

壁は、白い薄い大理石で覆われ、アルミボルトで留められています。 飾りには内部の装飾同様、金がふんだんに使われています。

正面上部には、小さな塔が両端にあり、 塔の上に全身緑色に金色の飾りをつけた2つの彫像があります。

聖レオポルドと聖セヴェリンで、ここニーダーエステライヒ州の守護聖人です。

入口の屋根には、緑色の身体に金色の羽と装身具を着けた、4体の天使の彫刻。

内部は、明るく近代的で、柱が一本もなく、広々とした開放感があります。 「美」「機能」「構造」の調和が特色の、オットー・ワーグナーの作品中、 最も美しい内部空間だと実感しました。

普通教会の主祭壇は東側にあります。

これはキリスト教の聖地エルサレムが、ヨーロッパから見ると東にあり、 朝の光を受けて、キリスト像やステンドグラスが神々しく輝くという事もあります。

しかしここでは精神病患者に光を見せて錯乱しないよう、北側に造られていました。

この他にも内部は、患者のためにかなり細かい部分まで計算され設計されています。
例えば
・ほとんどの角が丸くされ鋭い角がない。
・聖職者のエリアは、患者と完全に離れている。
・説教壇へのアクセスは香具室からのみ。
・もしもの時、患者を迅速に運び出せるように、非常口は教会の壁の側面に 組み込まれている。
・衛生保持のため、聖水盤の水は流れ出るように作られている
・教会内に容易にアクセス可能なトイレ設備がある。

祭壇に向かって左右、つまり東西の窓には美しいステンドグラスが嵌め込んであり、 見学できる午後には西日を受けて明るく輝いていました。

作者はコロマン・モーザー。

彼は愛称コ―ロとも呼ばれ、ウィーン分離派の一人で、 ステンドグラスばかりでなく、絵画、家具、本の装丁、ポスター、デザイン等、 多方面で活躍した才人で、ウィーン各地で彼の作品を見かけました。

美の余韻に浸りながら坂道を下ると、街へと戻るバス停近くの道路脇に、 大きな体重測定器が置いてありました。

20セント入れると体重が量れるのですが、道端のバス停で誰が使うのでしょうか。

バスに乗せる荷物に重量制限があり、そのチェックのためなのか? 他の国ではこんなものは見かけた事がなく、今でも疑問に思っています。