美術館訪問記-187 バーゼル市立美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:バーゼル市立美術館

添付2:ハンス・ホルバイン作
「画家の家族」

添付3:ハンス・ホルバイン作
「墓の中の死せるキリスト」

添付4:ニクラウス・マヌエル作
「パリスの審判」

添付5:ゴーギャン作
「タ・マテテ(マーケット)」

添付7:ルソー作
「豹に襲われる黒人」

添付9:クレー作
「R村」 

考えてみると、スイスの美術館もまだ一つしか採り上げていません。

スイスにある、50近くの訪れる価値のある美術館の中では、ドイツ国境近くにある 「バーゼル市立美術館」に触れない訳にはいきません。

ここは1671年一般公開された、ヨーロッパ最古の公立美術館で、 スイス最大のコレクションを誇る美術館でもあります。

主に印刷業で財を成した、アマーバッハ家のコレクションを バーゼル市が、1661年に9000クラウンで購入したものが、基となっていますが、 その後の寄贈や購入で、15世紀から現代までの幅広い所蔵品を有しています。

アマーバッハ家が後援していたハンス・ホルバイン一族の作品が多い。

ホルバインと言えば、英国でも活躍したハンス(1497-1543)が有名ですが、 同名の父(1465-1524)、父の弟ジグムント・ホルバイン(1470-1540)とハンスの兄 アンブロシウス・ホルバイン(1494-1519)も皆画家でそれぞれ作品を残しています。

ここにはホルバイン一族で合計32点あり、内ハンスの油彩画は18点もあり、 文句なく世界一のコレクションです。

なかでも、英国で単身赴任生活を送っていたハンスが一時帰国していた、 1528-29年に描いた、妻と二人の子供の寂しく悲痛な表情と、 渡英前の1521年作の「墓の中の死せるキリスト」の30.5x200cmという 極端に横長な画面に表現されたキリストの、迫真的な死の実態が印象的でした。

ジグムントと父ハンスは国際ゴシック色の残る画風ですが、アンブロシウスは 完全にルネサンス風で達者な絵。夭折したのが惜しまれます。

中2階のある3階建ての美術館の第1号室は、ドイツの生まれながら、 15世紀にスイスで活躍した、コンラート・ヴィッツが占め、16作もありました。

それに続く部屋にあった、クラナッハの5作、グリーンの7作もよかったのですが、 ニクラウス・マヌエル(1484-1530)というスイス生まれの画家も素晴らしい。

デューラー、クラナッハ、グリーンを足して3で割ったような感じの 細密で興味深い絵を描きます。7点ありました。

ベックリンの油彩24点とグラフィック27点、ホドラーの22点、 ヤウレンスキーの17点、セザンヌの8点とグラフィック16点等も見物でしたが、 共に6点ずつあるゴーギャンとゴッホも素晴らしい。

ゴーギャンの「ナフェア・ファア・イポイポ(何時結婚するの?)」と 「タ・マテテ(マーケット)」、ゴッホの「ピアノを弾くガチェット嬢」と 「女性の頭部」は中でも記憶に残るものでした。

3階の20世紀絵画のフロアーにはシャガールだけに1部屋が割かれた部屋があり、 彼の大作油彩画が8点も並びます。

それらのどれもが渾身の作と言える出来栄えで、迫力があります。 特に「緑色のユダヤ人」と「自画像」、「僧侶(ラビ)」は顔や服、髭等に 緑色を多用した狂気すら漂う作品。

「黒手袋の私のフィアンセ」はそれらとは逆に22歳のシャガールが生涯を貫いて 愛し続けたベラとの恋の最中のほのぼのとした作品。

一番の大作「馬車にのる人」は濃いピンクが多用され、黒、透明感のあるブルーが 使われたシャガールらしい夢幻的な作品。

このフロアーにはルソーの「豹に襲われる黒人」やピカソの「座る道化師」、 クレーの「R村」、「セネシオ」、、デラウニーの「ブレリオへの敬意」、 ココシュカの「風の花嫁」等その画家の代表作と言える力作が並びます。

どの絵も1点ずつ採り上げて詳述したい中身の濃い絵ばかりですが、 そうもいかないので、ココシュカの「風の花嫁」に絞りましょう。

181 x 220cmの大作です。

月光の下、逆巻く波風の中で小舟にたゆたい、寄り添う恋人達。

女性の方は満ち足りて安らかに眠っているようですが、男性はさめています。 虚空を見詰め、物思いに耽るよう。二人の心象風景を描いたようでもあります。

男性はココシュカ自身。 女性は芸術家のミューズ、つまり幾多の芸術家を魅了し、 霊感をかき立てる女神のような存在だった、アルマ。

アルマは作曲家グスタフ・マーラー、近代建築の父グローピウス、 ドイツ表現主義の代表的作家ウェルフェルという、 3人の、各分野を代表する芸術家と結婚しています。

彼女の別名は「天才たちの恋人」。

画家がいない?

そう、アルマは最初の夫マーラーの死後、ウィーンの問題児だったココシュカに 肖像画を依頼し、ココシュカは一目でアルマの魅力に取りつかれ、求婚します。

アルマはそれに応えるのですが、結婚はしなかった。

6歳年上のアルマに翻弄される、当時27歳のココシュカが、 やがて来る別れを予感しながら描いた、彼の最高傑作です。

ちなみにこの絵は当初、明るい色彩で塗られており、 アルマとの仲に不協和音が混じるに連れ、構図も微妙に変化して行き、 段々と寒色系に塗り直されていったそうで、動かせば絵具が はがれ落ちかねないほど、厚塗りされており、門外不出とか。

(添付6:シャガール作「馬車にのる人」、添付8:ピカソ作「座る道化師」および 添付10:ココシュカ作「風の花嫁」は著作権上の理由により割愛しました。
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