美術館訪問記-184 アバディーン美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アバディーン美術館

添付2:ロセッティ作
「マリアーナ」

添付3:ウィリアム・ダイス作
「ベアトリーチェ」

添付4:ウィリアム・ダイス作
「少年ティツィアーノの初彩色」

添付5:グウェン・ジョン作
「縫物を手に座る少女」 

添付6:セガンティーニ作
「田園生活」

イギリスの北東部、北海に臨む港町アバディーン市は、 グラスゴー、エディンバラに次ぐスコットランド第3の都市です。

美しい砂浜と、近郊から産出される花崗岩を使った、 白亜の建物が多いことでも知られています。

また、アバディーン大学は、オックスフォード、ケンブリッジ大学に次ぐ 古い歴史を持ち、大詩人バイロンをはじめ数多くの人材を輩出した、 アカデミックな都市でもあります。

我が国で幕末から明治にかけて活躍し、「長崎のグラバー邸」で知られる、 トーマス・ブレイク・グラバーもアバディーンの出身です。

このアバディーン大学に隣接して「アバディーン美術館」があります。

市民からの寄贈作品をもとに、1885年開館しました。 2階建てのネオ・クラシックな建物に収まっています。

中に入ると中央部分は1・2階吹き抜けで、その周りの回廊の壁と部屋が展示場。

最初の部屋がヴィクトリアン・ルームとなっており、 ラファエル前派の作品を中心に展示してありました。

ロセッティの「マリアーナ」が特別に印象的でしたが、 ウィリアム・ダイスの「ベアトリーチェ」と 「少年ティツィアーノの初彩色」 も素晴らしいものでした。

純粋でロマンティック。ナザレ派に通じるものがあります。

ウィリアム・ダイスは、1806年、アバディーンの生まれです。 薬学を修めた後、旅したローマでナザレ派に感銘し、同じ道を歩もうと決心します。

ウィリアム・ダイスはラファエル前派の父と考えられており、 ジョン・ラスキンにラファエル前派の良さを説得したのも彼でした。

アバディーン美術館は、ダイスの作品を世界一多く所蔵しているといいます。 今回観られたのは6点でした。

回廊の入り口から反対側になる所にドアがあり、2部屋に繋がっています。 ここではグウェン・ジョンの「縫物を手に座る少女」が目を惹きました。

グウェン・ジョンはここで初めて認識したのですが、 その後イギリスを旅する間、度々見かける事になりました。

彼女はウェールズの生まれで、ロンドンの美術学校を卒業した後、パリに出て、 新設のホイッスラーの学校で1年間学び、ロンドンに戻って、 画家として暮し始めます。

その後、27歳でフランスへ渡り、63歳で没するまで、戻る事はありませんでした。

暮らしのためロダンのモデルを務め、彼の愛人として10年ほどを過ごしています。

彼女の作品は、この絵のような、座る女性の肖像画と静物画、猫の絵に限られると 言ってもよいぐらい、主題を絞っていますが、 静謐で、ほのぼのとした、味わいのあるバランス感覚は見事です。

彼女の弟のアウグストゥス・ジョンも画家で、生存中は、 英国の後期印象派の画家として、ゴーギャンやマティスと比肩される人気でしたが、 今では、アウグストゥスが自身予言したとおり、 グウェンの弟として知られる存在になっています。

他にもレイノルズやレイバーン、エッティ、ランドシーア、ワッツ、ミレイ、 アルマ=タデマ、ペプロー、ファーガソン、カデル、ロウリー、スペンサー等の 英国勢、ボナール、ヴュイヤール、シスレー、モネ、ルノワール等がありました。

ところが事前の調べにあった、ブレイクやクールベ、ハント、セガンティーニ等が 見当たりません。

係員に聞くと、親身になって調べてくれましたが、 それらの作品は現在展示していないと言います。

セガンティーニは知らないと正直に言うので、説明すると、 作業中で公開していない部屋に案内してくれ、ここにあると言います。

まさに小品のセガンティーニ。但し、まだ彼の個性が発揮されていない、 若年期のもので、初々しさが漂っています。

スコットランドは、樺太島の北端よりも北にあり、アバディーンは中でも、 観る価値のある美術館のある町としては、北端。

訪れたのは盛夏でしたが、最低気温は9℃。コート着用の人も多いのでした。