美術館訪問記-182 バレル・コレクション

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:バレル・コレクション全貌

添付2:バレル・コレクション入口

添付3:バレル・コレクション内部

添付4:クラナッハ作
「ホロフェルネスの首とユーディット」

添付5:マネ作
「ハム」 

添付6:マネ作
「ビールを飲む女性達」 

添付7:ドガ作
「エドモンド・デュランティの肖像」 

遠路グラスゴーまでやって来たのなら、見逃せない場所がもう一つあります。

グラスゴーから5kmほど南の郊外の住宅地の中に、2つの美術館と牧場などがある、 ポロック・カントリー・パークという公園が、その場所です。

美術館の一つは、海運業で財をなしたウィリアム・バレルが グラスゴー市に寄贈した、9000点余りのコレクション。

残念ながら絵画は50点ほどに過ぎないのですが、 それらが全て選りすぐりの優れ物なのです。 残りは陶器や家具、武具などです。

これらの収集品を、バレルは1944年、美術館建設資金をつけて市に寄贈します。

その条件が面白い。 美術館は、市の中心から16マイル(26km)以上離れている事、というのです。

コレクションが公害で傷むのを心配したのだとか。

市当局は20年以上も条件に会う場所を探し続けていたのですが、そんな折 700年以上続いたマックスウエル家から、44万坪もあるポロック地所が、 同家の邸宅、ポロック・ハウスごと寄贈されたのです。1966年のことでした。

幸か不幸か、バレルは1958年死亡しており、市はバレルの寄贈条件を緩和して、 この緑多き広大な土地の中心に「バレル・コレクション」を建設し、開館します。

時に1983年。バレルの寄贈から40年近く経っていました。

ちなみにこのポロック・カントリー・パークは、 2008年度のヨーロッパ最優秀公園に選出されています。

牛や羊の放牧された牧草地帯を抜けて、公園内の広大な駐車場に車を停め、 直ぐ前のコレクションへ歩きます。

建物の大部分はガラスで覆われ、1年の大半は太陽光の乏しい北英で、 精一杯自然光を取り入れようとしています。

近代的な外観とは異なり、スコットランドの古い農家のような赤レンガ製の入口を 抜けると、2階まで吹き抜けの開放的なスペースがあり、展示棟が続いています。

先ず1階をグルリと回ります。 16-17世紀の部屋にレンブラントとモローニが1点ずつありました。

他はタペストリー、ステンドグラス、武具、陶磁器、彫刻、仏像、唐三彩、 発掘品等。広いガラス窓から外の木々や牧草地が見え、清々しい。

絵画は基本的に2階のみにありました。

どれも粒よりで、ボッティチェッリ、クラナッハ、ベッリーニ、レンブラント、 シャルダン、ドラクロア、ミレー、クールベ、ブーダン、マネ、シスレー、 セザンヌ、ゴーギャン、ピカソ等。

ここにあるクラナッハの色彩の艶やかさに惹かれたのと、 6点あったマネの内、「ハム」と題した銀製の皿の上に乗った厚切りのハムの絵と 「ビールを飲む女性達」の2点が、妙に心に残りました。

特にドガの20点は、よくぞこれだけ選び抜いた、という名作揃い。 バレルの鑑識眼の高さを物語っています。

中では、ドガの友人エドモンド・デュランティの書斎での姿を描いたものが、 ドガにしては珍しい。

小説家で批評家だったデュランティの印象派擁護の論陣が、 余程嬉しかったのでしょう。この絵は印象派による肖像画の傑作です。

ロダンの彫刻も14点ありました。

ロダンはドガと仲が良く、偶然ながら死んだ年も、1917年と同じでしたが、 バレルがドガとロダンを突出して収集したのは、 そういう2人の才能を高く評価していたのでしょう。

ここのブックショップには絵画だけの本はなく、 しかたなく買ったカタログ本は、160ページ中、22頁を絵画に割いているだけで、 しかも目ぼしい絵は、半分も載っていないのでした。

“The Scottish Colourists 1900-1930”という、 スコットランドのカラーリスト達を特集した美麗本が買えたのは、収穫でしたが。