美術館訪問記-172 タージ・マハル 

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:タージ・マハル上空からのグーグル・サテライト・マップ

添付2:タージ・マハル外塀

添付3:タージ・マハル

添付4:タージ・マハル壁面

添付5:タージ・マハル壁面

添付6:タージ・マハル内部 

添付7:タージ・マハルから見た入場門 

これまでビルバオのグッゲンハイム美術館やデンマークのオードロップゴー美術館、 幾つかの教会のように、美術品を収蔵している建物の美しさには触れて来ましたが、 今回は建物そのものが美の極致であるタージ・マハルについてお話しましょう。

「タージ・マハル」はインドの首都ニューデリーの南南東180km程の所にある、 アーグラ市にあります。

アーグラはガンジス川最大の支流であるヤムナー川沿いにあり、 古代より交通の要所として発展してきており人口約170万人。

その町の東、広大なタージ保護林に東端を接し、北端をヤムナー川に接して タージ・マハルが造られています。

添付のグーグル・サテライト・マップで判るように、完全な長方形の敷地で 長辺580m、短辺300m。周囲は添付2のような赤砂岩で造られた塀で囲われています。

その塀の中央にある門を潜って中に入り、タージ・マハルを目にした時、 余りの美しさに息を飲みました。

世界中で古代から現在に至る城や、宮殿、寺院、教会、神社、仏閣、邸宅、官邸等 いろんな美しい建築物を見て来ましたが、タージ・マハルの美しさはそれらの どれとも比較にならない、絶対的なものさえ感じます。

そう感じさせる秘密はどこにあるのか。

第一は周りに何もなく巨大だということでしょう。

我々が富士山を絶対的な美と感じるのは、周りに何もなく、 他を圧して厳然と聳える、圧倒的な存在感にあるのではないでしょうか。

タージ・マハルは大河を背に平野に佇立し、周りに比較する物は何もありません。 しかも高さ74.2m。21階建てのビルディングに相当します。

我々が普段目にするタージ・マハルは、 その全貌を捉えるために遠写しており、それほどの大きさを感じませんが、 近くで見ると巨大で、圧倒的な存在感を覚えます。

第二はその白亜の大理石の美しさでしょう。

1653年完成とは信じられない美しい輝きを今に保ち、 光を受けて煌めく様は、陶然とするしかありません。

その白さが300m四方の前庭の緑と呼応し、中央に十字に掘られた水路に写る美しさ。

第三は完全なシンメトリーにあるでしょう。

四隅に建てられたミナレットを含め、 全体が一点の狂いもなく左右対称になっています。

第四は建物の均整のとれたフォルムでしょう。

二層の四角な建物の上に聳えるドームと建物に形作られたアーチの美しさ。 アーチ内側の壁は内部に深く窪み、 この窪みが陰影となって建物全体に立体感を与えています。

第五は壁面のアラベスク模様の美しさにあります。

世界各地から取り寄せられた碧玉、翡翠、トルコ石、ラピスラズリ、サファイア、 カーネリアン等28種類もの宝石・宝玉が嵌め込まれた浮彫や透かし彫りの美しさ。

最後に、この場所に至るまでの困難さと周囲の環境との格差があるでしょう。

一緒に世界中を旅した妻は、インドだけは2度と行きたくないと言います。 タージ・マハルだけに行けるのであれば、行きたいとは言いますが。

確かに裸足で路上にたむろする人々や牛、散乱するゴミ、 駅のホームの汚れた地面に横たわって、列車を待つ大勢の人々等は、 清潔好きな日本人にとっては、抵抗があるかもしれません。

それらと隔絶したタージ・マハルの美がより一層際立って感じられ、 印象に強く残るという要素はあるでしょう。

インドに6回行っている私はインドに対する嫌悪感は全くありませんが。

尤も妻とインドへ行ったのは1999年。私が最後にインドへ行ったのは2004年。

世界はどんどん変化しています。 今のインドは蛹から脱皮した蝶のように変わっているかもしれません。

タージ・マハルはムガール帝国皇帝が、 14人目の子供を産んだ直後36歳で死亡した妃の為に造った霊廟で、 1000頭の象と2万人を使い、22年の歳月を要したといいます。

普通でも4人の妻が許されるイスラム教の帝国で、 皇帝はその何十倍もの女性を擁したハーレムを持つのが当たり前だった時代に、 有史に残る最も豪華な霊廟を唯一人の愛妃を偲んで造った王の想いの強さが、 タージ・マハルの美に結晶しているのかもしれません。

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