スロバキア共和国の南にはハンガリーがあります。
ハンガリーの首都ブダペストは前回のブラチスラヴァから南東に170km程の場所に 位置し、ドナウ川を挟んで西岸のブダと東岸のペストが1873年に合併してできた、 人口174万人の、中欧、東欧の中では最大の都市です。
このペスト側の広い市民公園の端にハンガリー建国1000年祭の一環として 1896年に建設を開始し1900年に完成した英雄広場を挟んで 西側に西洋美術館、東側に現代美術館があります。
今日はその「ブダペスト国立西洋美術館」を採り上げましょう。
威風堂々としたギリシャ神殿風のファサードを持つ2階建て。 1906年の開館ですが、この建設もハンガリー建国1000年祭の一環です。
開館当時は国立美術館でしたが、増加する一方のコレクションを捌くために、 1957年ブダ側の丘の上にある旧王宮内の国立絵画館にハンガリー美術を移し、 今は国立西洋美術館となっています。
この美術館はハンガリーの名門貴族エステルハージ家のコレクションが 基になっており、その素晴らしさは、流石栄華を誇った オーストリア・ハンガリー帝国でハプスブルグ家に次ぐ 位置にあっただけのことはあると納得させられるものがあります。
特にオールド・マスターのコレクションは卓越しており、イタリア、ドイツ、 フランドル、スペイン、イギリス、フランス美術が豪華に揃う様はため息が出ます。
特にイタリア美術のラインアップは本場顔負け。
なにせドゥッチョに始まり、ロレンツォ・モナコ、クリヴェッリ、ギルランダイオ、 フランチャ、ベルゴニョーネ、フィリッピーノ・リッピ、ソドマ、ジョルジョーネ、 パルマ・ヴェッキオ、ルイーニ、ロット、ラファエロ、ピオンボ、ティツィアーノ、 コッレッジョ、ドッシ、バッキアッカ、モレット、ブロンズィーノ、バッサーノ、 ティントレット、モローニ、ヴェロネーゼ、チゴリ、カッラッチ、グイド・レーニ、 グエルチーノ、ローザ、ジョルダーノ、リッチ、ティエポロ親子と続くのですから。
ドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャ(1255-1319)はイタリア、シエナで活躍。
シエナ派の祖と見做される人物で、ジョット同様、 ゴシック絵画からルネサンス絵画への橋渡しをした画家で、 西洋絵画の礎を築いた重要人物の一人です。
イタリア人画家だけでもこれだけ揃うのですから、他も推測できるでしょう。
中でもスペイン美術のコレクションはスペイン以外ではトップクラスと言われ、 グレコの7作を筆頭に、ゴヤ5作、スルバラン3作、ムリーリョ3作、リベーラ、 ベラスケス、アロンソ・カーノ1作ずつとなかなかのもの。 エル・グレコの「受胎告知は」大原美術館のそれと酷似していました。
ピーテル・ブリューゲル父の「説教する洗礼者ヨハネ」や アルブレヒト・デューラーの「男性の肖像」、 ハンス・メムリンクの「磔刑図」、グリーンの「アダム」と「イヴ」等も そうそう観られるものではありません。
近代絵画はオールド・マスターのコレクションの充実ぶりに比べれば やや見劣りがしますが、それでもコロー、ドラクロア、ミレー、クールベ、 ブーダン、ピサロ、マネ、セザンヌ、モネ、ルノワール、ゴーギャン、ボナール、 ドニ、ユトリロ等と目を楽しませてくれるのに十分です。
素描や版画も充実しており、レオナルド・ダ・ヴィンチの3点の素描を始めとして レンブラントの41点の版画、ドーミエの138点の版画、ゴーギャンの11点の 素描や版画など、素描1万点、版画10万点近くを所有しています。
なおここの地階にはエジプト美術が、 1階には古代ギリシャ・ローマ美術の展示もあります。
撮影許可のティケットを購入して胸につけていれば、撮影可というのも、 所々で見かけますが、中欧では一般的なようです。