美術館訪問記-154 プラハ国立美術館-シュテルンベルク宮殿

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:プラハ東側から見たプラハ城、写真最上部の建物全部が城

添付2:シュテルンベルク宮殿入口

添付3:シュテルンベルク宮殿中庭

添付4:アンドレア・デッラ・ロッビア作
「聖母子」
彩色テラコッタとロッビアについては第135回参照

添付5:「男性頭部」
ローマ時代、1世紀作 

添付6:ジャンピエトリーノ作
「聖マグダラのマリア」 

添付7:ブロンズィーノ作
「エレオノーラ・ディ・トレドの肖像」 

添付8:マビューズ作
「聖母子を描く聖ルカ」 

添付9:デューラー作
「薔薇冠の聖母」 

添付10:シュテルンベルク宮殿脇の彫刻庭園 

ヨーロッパで最も中世の雰囲気が感じられる首都と言われるプラハ。

その要因の一つは街の西側の丘の上に聳えるプラハ城の威容でしょう。

広大なプラハ城の西に面してある大司教宮殿の隣に「プラハ国立美術館-シュテルンベルク宮殿」があります。

ここはそれと知らなければ判り難い。

特に何の標識もなく、狭い右斜めの石畳の坂を降りていった突き当りに ひっそりと佇んでいるのですが、一歩中に入ると3階建ての宮殿が出現します。

階段を上がった2階からが展示室になっていますが、 入口の壁に架かっているアンドレア・デッラ・ロッビア作の 聖母子の彩色テラコッタ・トンドがしっとりとした情感を湛え、 美術館モードに誘い込む役目を果たしています。

続いて展示されている、額の部分が欠けて空洞の、ローマ時代の男のブロンズ像が、 もののあはれを体現しているようで、心に残ります。

シュテルンベルク宮殿を想う時、何故か、このブロンズ像が最初に眼に浮かびます。 他の美術館の場合は、先ず、代表的な絵画が思い浮かぶのですが。

ここの2、3階には、イタリアとフランドル、フランス、スペインの古典絵画が 勢揃いしており、超一級のコレクションを誇っています。

数多くある名画の中から、印象深かった作品を幾つか挙げると、 先ずジャンピエトリーノの「聖マグダラのマリア」。

この絵のタイトルは10年前に来た時は 「マドンナと七人のキューピット」となっていました。

絵画にタイトルが付けられるようになったのは、18世紀以降のことで、 それ以前の絵画のタイトルは絵画の主題や種類に基づいて後世付加した通称です。

従って、研究によって絵画の主題の解釈が変われば、タイトルも変わる訳です。

例えば誰でも知っている「モナ・リザ」は、 レオナルド・ダ・ヴィンチがそう呼んだ訳ではなく、 後のヴァザーリの書いた「芸術家列伝」の記述に基づいた通称で、 イタリアやフランスでは、「ラ・ジョコンダ」というのが通称になっています。

ジャンピエトリーノは本名ジョヴァンニ・ピエトロ・リッツォーリ。 レオナルド・ダ・ヴィンチのミラノ時代からの弟子で、師匠によく似た画風で、 師の作品の複写も多く、時にはレオナルド作品と間違われた事もあったようです。

師の死後も30年間は活動したため、残した作品も多く、 世界各地の美術館に所蔵されています

美術館のポスターにもなっている、ブロンズィーノの 「エレオノーラ・ディ・トレドの肖像」も目を惹く作品でした。

エレオノーラはメディチ家のコジモ1世の妻で、スペイン、トレドの生まれ。 11人の子沢山で、夫共々、ブロンズィーノのモデルになった作品が多くあります。

マビューズの「聖母子を描く聖ルカ」も、彼らしい重厚で緻密な作品です。

四福音書記者の一人として知られる聖ルカは、画家でもあり、 初めて、聖母マリアの肖像画を描いたとされています。

そのため、画家達の守護聖人となっており、 フランドル地方の画家のギルドは、「聖ルカ組合」を名乗るのが多かったのです。

例えば、ルーベンスはアントワープの、フェルメールはデルフトの、 聖ルカ組合に所属していました。

数々の名画を堪能して、中庭に出ると、ドイツ美術の矢印があり、 向かい側の建物の1階6部屋に、 デューラーを始めとするドイツ人や、オーストリア人画家達の作品が展示中でした。

中でもデューラーの「薔薇冠の聖母」は、152 x 192cmの大作で、 彼が35歳で、2度目のイタリア旅行をし、 ヴェネツィア在住のドイツ商人達の依頼で サン・バルトロメオ聖堂の祭壇画として、描いたものです。

聖母が薔薇の冠を、様々な階層の人々に見立てたドイツ商人達に、 平等に授けている場面を描いたものですが、 鮮やかな色彩と安定した構図は、ヴェネツィア絵画を強く意識したもので、 既に版画の名手として知られていた彼が、白黒だけの版画に留まらず、 色彩を操る上でも一流である事を証明した、代表作です。

隣の小部屋に、デューラーの美麗な版画が8点。 クラナッハ親子の油彩作品も計6点。

満足して外に出ると、小径があり、近代的彫刻が散在する緑溢れる庭に出ました。

中央の高木の頂きの葉が、青空を背景に光を受けて輝くのが、 息を呑む美しさでした。

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