ところでサン・ジェルマン・アン・レー駅の直ぐ前には 「国立考古学博物館」があるので、この際触れておきましょう。
この博物館は16世紀にフランソワ1世によって建てられた立派な城の中にあります。
その後城は何度か改修されましたが、ナポレオン3世が1867年最後の大改修で 16世紀当初の姿に戻し、フランス古代博物館としました。
現在は国立考古学博物館となっています。 先史時代の博物館としてはヨーロッパ随一ということです。
ここの1階の中程に「ブラッサンプーイの貴婦人」と呼ばれる象牙製の 女性の頭部像があります。
高さ3.65cm, 奥行2.2cm、幅1.9cmという小さなものなのですが、 目鼻立ちもくっきりとして、一見現代的なホモ・サピエンスの彫像です。 長く垂らした髪もそれらしく彫られています。
これが何とおよそ2万5千年前にマンモスの牙から作られたというから驚きです。
人の顔を表した出土品では世界で最も古いものの一つということなのですが、 とてもそんな昔に作られたとは思えません。
由来を伏せて、現代彫刻の一つと言われたら無理なく受け入れられるものなのです。
第9回のペシュ・メルルの洞窟の壁画もその迫真性に驚かされましたが、 この像の造形美には唸らされました。
隣に同時代に作られたという「豊饒のマドンナ」という 大きな乳房とお腹の女性像が展示されていますが、 こちらはいかにもその頃と思わせるプリミティブな形をしています。
2万5千年前にもミケランジェロがいたということなのでしょうか。
彫刻の原点と芸術の奥深さを知らされた思いで強く印象に残っています。
城の横は広大な公園になっており、高台の端、ルイ14世が造らせた 全長2400mのグランド・テラスからはセーヌ川とパリの街並が一望できます。