前回取り上げたバーン=ジョーンズの「ペルセウス」シリーズ。 全10点の内、油彩画としては何点完成し、 何処にあるのかという疑問を抱かれた方も多いでしょう。
実は完成したのは半分の5点、第1,2,8,9,10場面。 描きかけが3点、第3,4,6場面です。
これらは全て一括してドイツ、「シュトゥットガルト州立美術館」にあるのです。
やはり、単色を置いただけの部分が多い下絵に比べれば、 鮮やかな色彩に加え、細部や微妙な陰影までをしっかり描き込んだ 完成作は妖艶なまでの美しさを放っています。
シュトゥットガルトはドイツ南西部の経済の中心地で、 フランクフルトとミュンヘンの中間地点にあたります。 黒い森に囲まれた盆地にある文化都市でもあります。
中心にある宮殿広場の周囲には2005年にできた全面ガラス張りの 現代アート美術館や、旧宮殿だった州立博物館、州立劇場等が建ち並んでいます。
その州立劇場と大通りを挿んで向かい合っているのが州立美術館。
1843年にできた旧舘と1984年にイギリスの建築家ジェームス・スターリング によって建てられた新館があります。 この新館は古典主義建築の意匠を翻案した ポストモダン建築の傑作として名高いそうです。
旧舘には19世紀までの絵画、 新館には20世紀以降と大きく分けて展示されています。 両館共世界の名画が集まり、ドイツでも有数の美術館です。
クラナッハやグリーンは勿論レンブラント、ルーベンス、ステーン等に加え、 メムリンクの「バテシバの水浴」があります。
これは2重の意味で面白い。 1つはメムリンクには珍しいヌードの大作であること、 もう1つはダビデ王が覗き見している左上部の描写が切り離されている事です。
17世紀に似ても似つかぬ絵で塞がれ、 その元絵が1986年に買い戻されて並べて展示されているのです。
イタリア絵画のコレクションも素晴しくベッリーニ、カルパッチョ、ヴァザーリ、 ティントレット、ティエポロ親子、カナレットと揃っている。
イタリア以外では珍しいロレンツォ・モナコの「聖母子」と、 マンテーニャばりに、死せるキリストを足元からの視点で描いた アンニバレ・カラッチの絵には瞠目しました。
19世紀以降ではバーン=ジョーンズの8作に、フリードリッヒ、コロー、 ドラクロア、クールベ、ピサロ、マネ、ドガ、セザンヌ、モネ、 ルノワール、ゴーギャン、マティス、ピカソ、モディリアーニ、ダリ等。
これにドイツ表現主義の画家達。 特に近くのシュパイヤー生まれのアンゼルム・フォイエルバッハの代表作 「イーピゲネイア」にはバーン=ジョーンズに似通う詩情とロマンを感じました。
美術館を出て少し行った夕暮れの宮殿広場は、 固定パントマイムの大道芸人達やそぞろ歩く人々で賑わっていました。