世界で6番目に小さな国、リヒテンシュタイン公国。 小豆島と同じくらいの大きさで、西はライン川に沿ってスイスと、 東はオーストリアに接する二重内陸国(海に出るためには少なくとも 2国を通過しなければならない国)です。
リヒテンシュタイン公爵を国家元首とする立憲君主国ですが、 経済、外交、軍事等をスイスに依存しています。 通貨、郵便、電話等も全てスイスと共通。
タックス・ヘイブン国としても知られ、税金逃れを目的とした ペーパーカンパニーが多く、国家収入の40%以上が法人税。 このため国民には所得税や相続税、贈与税はありません。
この国の首都ファドゥーツに「リヒテンシュタイン美術館」があります。 2000年を記念して国民有志より国家に寄贈されたもので、2000年11月の開館。 2階建て、地下1階のモダンな建物です。
前の丘の上に聳えるリヒテンシュタイン公爵の居城、 ファドゥーツ城と好対照をなしています。
コレクションも国民有志からの寄贈と美術館の購入による 19世紀以降の近現代絵画・彫刻・オブジェが主体。
2001年7月に訪れた時には、アンソニー・ヴァン・ダイク、ターナー、 コンスタブル、コロー、ミレー、クールベ、ヤウレンスキー、カンディンスキー、 クレー、ノルデ、キルヒナー、ダリ、フォルトゥナート・デペーロ等に加え、 リヒテンシュタイン公爵所有のヨルダーンスやルーベンスの大作等も 鑑賞できたのですが、2012年9月に訪館の際は、 聞いた事の無い現代作家達のエキシビションで、全館が占められていました。
受付で確認すると、コレクションは全てお蔵入りで、 現在は企画展主体に運営されているとの事。
最近は、こういう現代美術に絞った企画展を開催している美術館に行き当たる事が 多くなり、私のように、現代美術よりも近代以前に興味のある者にとっては、 何故、少しでも、自慢のコレクションを展示するスペースが確保できないのかと 文句の一つも言いたくなります。
フォルトゥナート・デペーロ(1892-1960)という名前は、 聞いたことがないという方もおられるでしょう。
未来派の画家、彫刻家、デザイナーと著述家という多才な才能の持ち主で、 抽象画家の先駆けの一人、ジャコモ・バッラと 「宇宙の未来派主義的再構成」宣言を1915年に書いた同じ年に、 バレエのステージ・セットやバレリーナの衣装を手掛けたりもしています。
未来派とは、20世紀初頭にイタリアで起こった前衛芸術運動で 伝統的美学や道徳の粉砕を謳い、キュビズムを誇張表現として使い、 機械時代の疾走感や喧騒感を表現しました。
伝統の粉砕が破壊的な行動の賛美に結びつき、ロシアの前衛運動や 好戦的で戦争や破壊を新しい美とするファシズムと合流する芸術家も出てきて、 これらの反発から、崩壊の道を辿ります。
口直しにと、100m足らずの場所にある国立博物館を訪ね、 オールド・マスターの1作でもと期待したのですが、 3階建ての小さな博物館には、絵画作品としては、 無名の画家の肖像画が数点あるのみで、肩すかしに終わったのでした。
注:オールド・マスター:ゴヤ以前の18世紀より前に活躍した画家や彼等の作品