美術館訪問記-102 ウィーン、リヒテンシュタイン美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ウィーン、リヒテンシュタイン美術館正面

添付2:リヒテンシュタイン美術館図書室

添付3:リヒテンシュタイン公爵使用の宮廷馬車

添付4:ヘラクレスの間と天井画

添付5:ルーベンス作
「クララの肖像」

添付6:バドミントン・キャビネット

添付7:レオナルド・ダ・ヴィンチ作
「ジネヴラ・デ・ベンチの肖像」
ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

リヒテンシュタイン公爵家は神聖ローマ帝国のハプスブルク家に仕える家臣でした。 従って、帝国の首都だったオーストリア、ウィーンにも宮殿を構えていました。

そのバロック宮殿が「リヒテンシュタイン美術館」として公開されています。

前回、ファドゥーツにある、リヒテンシュタイン美術館を紹介しましたが、 このウィーンの美術館とファドゥーツの美術館とは、全く関係ありません。

ウィーンの方は私立美術館、ファドゥーツの方は国立美術館です。

日本語では名前が同じですから、混同してしまいますが、全く別物です。

現地語(どちらもドイツ語)ではウィーンはLichtenstein Museum、 ファドゥーツはKunstmuseum Lichtensteinとなり、明らかに異なるのですが。

実は、ウィーンにあるリヒテンシュタイン美術館はウィーン最初の美術館として 1938年まで機能していたのですが、ナチス・ドイツのオーストリア併合時に 美術品を疎開分散させ、閉じていたものを66年振りに、2004年再開したのです。

家臣としての分を守るためでしょうか、外見はシンプルな造りですが、 内部は流石に豪華絢爛。宮殿そのものが美術品とも言えます。

特に図書室の立派なのには驚きました。まさに王侯貴族の生活。

1階は図書室や特別展用の部屋、宮廷馬車や彫刻等が展示され、 天井画は見事ですが、常設絵画作品の展示はありません。

贅沢な空間が広がっています。

2階には展示室10室と中央に大広間があります。

このヘラクレスの間は600平方メートルにも及ぶウィーンで最も大きい バロック広間で、天井を、アンドレア・ポッツォが筆を振るった、 壮大なオリンポスの神々のフレスコ画が煌びやかに彩っています。

各部屋に、日英独仏伊西で別々に書かれた、説明シートが置いてあります。 展示されている作品には、番号が振ってあるだけで、 そのシートに、番号に応じて、作品と作者の解説が書かれています。

これが実に分かり易く、親切に書かれていて、知りたい情報が一目で得られ、 便利です。オーディオガイドでは、えてして、不要な情報も我慢して聞かなければ 必要な情報に行きつかないような事もあります。

他の美術館も、リヒテンシュタイン美術館の方式を見習って欲しいものです。

ここの見どころは、ルーベンスの作品を30点以上所有していることです。 中では娘のクララの肖像画がルーベンスの父親としての愛情が感じられて 秀逸でした。

ルーベンスの弟子だったアンソニー・ヴァン・ダイクも16点ありました。

2004年に、クリスティーズにて38億円で購入したという、世界最高値の家具、 バドミントン・キャビネットにも、触れない訳にはいかないでしょう。

鍍金したブロンズであるオルモルと黒檀で作られた、 高さ386cm、幅232.5cmの大きなキャビネットの全面に、貴石で作られた絵柄が、 絵画としても素晴しく、見とれてしまいました。

リヒテンシュタイン公爵家は代々、美術品収集に格別の情熱を傾けて来たようで、 絵画だけでも1600点以上を保有しているといいますが、 その情熱は未だに衰えず、継続されているようです。

しかしそんな公爵家も第二次大戦後には財政難に陥った事もあったようで、 1967年、公爵家所有のレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作 「ジネヴラ・デ・ベンチの肖像」が、500万ドル(当時の為替レートで18億円)で、 ワシントン・ナショナル・ギャラリーの手に渡り、話題になりました。

それまでの歴史上、絵画一作品としては最高値の取引と言われました。

なにせ葉書一葉が7円だった頃の話です。

これがヨーロッパ以外にある、唯一のレオナルド作品となっています。

リヒテンシュタイン美術館は入場者が少なく、経営的に難しかったようで、 2011年末から個人入場を終了し、団体見学申込みや特別イベント時のみ 開館することになっています。残念です。