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美術館訪問記 No.7 出産の聖母美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

ピエロ・デッラ・フランチェスカ作
「出産の聖母」

出産の聖母美術館

モンテルキ村

ピエロ・デッラ・フランチェスカの作品はどれも硬質で、近寄りがたい荘厳な雰囲気があります。 そこが「絵画の君主」と呼ばれる一つの所以です。

そのピエロの例外とも言える作品が、イタリア、サンセポルクロから南に17kmの所にある寒村、モンテルキの美術館にあります。

絵の題材としても、私はこの大壁画以外に見たことのない「出産の聖母」。260cm x 203cmの大作です。 左右に自分の半分ほどの背丈の天使を従えた、臨月のマリアが大テントの中で右手を自分の、はちきれんばかりに膨らんだ腹に置き、左手は、くの字に左腰を支え、憂い顔でどっしりと立っている。 聖母の服は空色一色のマタニティ・ドレス。腹部に出産を暗示するような開放部がある。どことなくユーモアの漂う絵です。

この聖母の服の青色はラピスラズリが使われています。ラピスラズリはアフガニスタンが原産の鉱石で、金と等価値だったといわれ、その高価さもあって、高貴な色とされ、聖母の服にはピッタリだったのでしょう。地中海(マリン)を越えて(ウルトラ)運ばれて来るので、ウルトラマリンブルーとも呼ばれました。

左右の天使は反転コピーで、服と翼、靴下の色も対比している。二人が開くダマスク模様(緞子に似た紋織物)の天幕と共に儀式的な構図です。ピエロはこの大作を僅か7日で仕上げたといいます。反転コピーと単色の広色面で手間と時間をはぶき、上質の顔料で一気呵成に仕上げたのでしょう。

現在は壁から剥がされて、この絵のためだけに建てられた専用の美術館に飾られていますが、元はサンタ・マリア・ディ・モメンターナ教会の礼拝堂の中にありました。モンテルキはピエロの母の生まれ故郷。母を思う子の心がこの例外的な絵を描かせたのでしょうか。

美術館の正式名称はMuseo della Madonna del Parto(出産の聖母美術館)。

この絵があることが小さな村の誇りで、これまで何度かあった大きな美術館への移動話を拒絶してきたのだそうです。

教会や教会付属美術館は別として、入場料を取る美術館で収蔵作品が1点だけというのは、おそらく世界でもここだけでしょう。

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