前回の郡山市から南東に60㎞程の場所に福島県いわき市があります。人口33万6千人余り。東北地方では仙台市に次いで2番目の人口の多い市です。JRいわき駅の南口から南南西に700mも行くと「いわき市立美術館」があります。
1984年開館の3階建て。矩形の建物での入口前の広場にヘンリー・ムーアの「横たわる人体」が鎮座していました。彼曰く「彫刻は野外の芸術である。昼の光、陽の光がそれには必要である。私にとって最上のセッティングは自然である」。
中に入るとリチャード・ハミルトンのシルクスクリーン「インテリア」が眼に飛び込んできました。日本で彼の作品を目にするのは珍しい。
ポップアートは、現代美術の芸術運動の一つで、大量生産・大量消費社会をテーマとして表現するもので、1960年代アメリカでの成功に先駆け、1950年代イギリスで既にその最初の活動が始められていたのです。
その先頭を切ったのがリチャード・ハミルトン。
彼が1956年に発表した「一体何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力あるものにしているのか」は、当時の様々な社会情勢を一枚の作品にまとめたポップアート史上初の傑作とも言われる、象徴的な作品。
雑誌のグラビアやテレビの映像、外套の看板やポスターなどを素材に、マス・メディアの発達とそれに伴う大量消費社会、その最先端を行くアメリカ文化を賛美したコラージュ作品です。
この作品の大衆性、俗っぽさをして「ポップアート」という言葉が美術界に一躍浮上し注目を浴びるようになったのでした。ポップというのは英語のポピュラーの短縮形です。
魅力的なアメリカ文化や日常社会に注目し、雑誌や広告、漫画、報道写真などを素材として扱い、通俗を嫌った過去の美術運動に大胆に挑戦した視点と手法。そこには現実社会を肯定的に受けとめる大らかさと明るさ、大衆文化の醸し出す人間らしさが漂っています。
リチャード・ハミルトンは1922年ロンドン生まれ。複数の美術学校で学んだ後、芸術家としての活動を始め、版画やコラージュ、デザインなどジャンルを超えた多様な創作活動を続けました。2008年、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞しています。2011年死去。
ここに展示されていた「インテリア」は1956年に作成された同名のコラージュ作品を、後年、版画化したものです。
アレックス・カッツの「ドンとサンドラ」がありました。彼の作品も日本の美術館では他に観た記憶がありません。アメリカの美術館ではよく見かけますが。
アレックス・カッツは何回か名前を出しましたが、まだ説明していませんでした。彼は1927年、ニューヨーク生まれで、クーパー・ユニオンとスカウヒーガン絵画彫刻学校で学び1950年卒業。
1954年、最初の個展をニューヨークで開催後、1974年、ホイットニー美術館は彼のプリント展を、さらに1986年にはアレックス・カッツ回顧展を開催。後者の回顧展はアメリカ国内を巡回しています。
カッツは自身の絵画スタイルを発見するために初期の10年間の約1000点の絵画を破棄した事を認めており、「私は既に公認されている事をしたくない。特定の題材においては基本的に物語が好きではないんです」と語っています。
1950年代末から人物画を主体としたスケールの大きな具象絵画を描き始め、はみ出したような構図、透き通るような色、均一に塗られた絵の具、簡略な線、木製のパネルなどを特徴として、現在まで第一人者として描き続けています。
一目でカッツの作品とわかるこれらの特徴は喜多川歌麿の影響といわれます。
ここはポップアートに傾注しているようで、他にもロイ・リキテンスタインの「二つの円のある近代絵画」やジェームズ・ローゼンクイストの「成長計画」なども展示されていました。
「成長計画」はローゼンクイスト独自のフォト・リアリズムの手法で描かれており、白線の引かれた芝生の上に同じ姿勢で立った少年たちに表情はありません。
大量生産、大量消費の社会の中で没個性的に成長させられていく子供たちが現代社会の陥っている危機的状況を暗示しているかのようです。
ここも撮影禁止で展示作品の写真は美術館のホームページや「いわき市立美術館コレクション100」という美術館本から借用しました。
(添付4:リチャード・ハミルトン作「インテリア」、添付5:リチャード・ハミルトン作「一体何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力あるものにしているのか」ドイツ、テュービンゲン市立美術館蔵、添付6:アレックス・カッツ作「ドンとサンドラ」、添付7:ロイ・リキテンスタイン作「二つの円のある近代絵画」 および 添付8:ジェームズ・ローゼンクイスト作「成長計画」は著作権上の理由により割愛しました。
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