戻る

美術館訪問記 - 547 ボウドインカレッジ美術館、Brunswick

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ボウドインカレッジ美術館遠景

添付2:ボウドインカレッジ美術館正面

添付3:エドワード・ホッパーのメイン展ポスター

添付4:アッシリアのレリーフ 紀元前860年頃

添付5:ケニオン・コックス作
「ヴェネツイア」

添付6:ケニオン・コックス作
「田園詩」ワシントン、国立アメリカ美術館蔵

添付7:ジョン・ラファージ作
「アテネ」

添付8:ホーマー作
「夜の噴水」

添付9:カサット作
「裸足の子」

添付10:ボウドインカレッジ美術館内部

ボストンの北東200㎞程の所にメイン州、ブランズウィックという人口2万人余りの市があります。

ここにあるのが「ボウドインカレッジ美術館」。

カレッジという言葉は何度も出しましたがまだ説明していませんでした。日本語ではカレッジもユニヴァーシティも共に大学と訳していますが、厳密には二つは違います。ご存知の方も多いと思いますが念のため。

カレッジは複数の学部、研究科を持たず、大学院課程を設けていない大学で。ユニヴァーシティは複数の学部、研究科、大学院課程からなる総合大学のことです。

ボウドインカレッジは1794年設立の歴史ある私立大学で、学生数1800人ほど。入学難易度、卒業難易度が共に非常に高く、米国の大学ランキングでは常に最上位グループに位置し、ハーヴァードやイェール大学に匹敵します。

アメリカの大学の敷地は何処も広々として緑に満ちています。この美術館は広い芝生の前にあるローマ神殿風の建物。大学付属美術館にしては凝っています。

この隣に対照的なガラスの箱のような小さな建物があり、ここが入口で地下に階段で降りると美術館の地階になっていました。

訪れた時は、ここで「 エドワード・ホッパーのメイン」という企画展実施中。

ホッパーのメイン地方の風景を描いた油彩画・水彩画が計73点、デッサンが14点も展示されていました。これだけ大量のホッパーを初めて観ました。

彼の生涯と芸術を簡略に紹介する映画も上映中。日本の様に回り持ちの企画展ではなく、これだけの特別展を独自に開き、しかも入場無料というのですから、アメリカの大学は懐が深い。

1階に上がると、アッシリアのレリーフがありました。隣の2部屋には中国の青銅器が並んでいます。青銅楽器を弾いてみるのも自由。

上海博物館でみて以来の見事な品揃え。どうしてこんな代物がこんな所に、と注意して見ると、中国湖南省からの借用品と説明書きがありました。そうでなければ、とてもこれ程のものは揃えられないでしょう。

ホッパーといい、青銅器といい、地方の一大学美術館がよくもこれだけの物を集められたものです。

今は閉じられている正面入口はホールになっていて、高い天井の四隅にエリュー・ヴェッダー、アボット・サイヤー、ケニオン・コックス、ジョン・ラファージがそれぞれローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、アテネと題する壁画を描いています。

これら4都市は西洋絵画の発展に最も重要な影響を与えた都市と考えられており、それぞれがその都市の寓意画を描くように依頼されたのです。

このアメリカ・ルネサンス絵画を担う4人の内、ケニオン・コックスは初出です。

彼は1856年オハイオ州の生まれで、ペンシルヴァニア美術学校卒業後1877年パリに渡り、国立美術学校でジェロームやカバネルの下で学びながらフランス各地やイタリアを巡り、ルネサンス美術を貪欲に吸収していきます。

1882年にニューヨークに戻り、イラストレーターや美術批評家として活躍しながら、画業を続けて行きます。

ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグの教授に就任して教え子の一人と結婚後は壁画制作も多くなり、ワシントン国会議事堂図書館のような重要な公共施設の壁画を多数手掛けています。1915年には国立壁画協会会長に就任。

ケニオン・コックスは生涯、描き、教え、書きながら1919年永眠。

ここにある「ヴェネツィア」は、1894年の作で、中央に座すヴェネツイアの左側に絵画を象徴する絵筆とパレットを持った女性、右側に商業の神マーキュリーを配して、ヴェネツィアという都市の特徴を表出しています。

背後の羽の生えたライオンはヴェネツィアのシンボルですし、商船は地中海貿易で栄えたヴェネツィアの町を暗示しています。

前回触れたラファージの「アテネ」はギリシャ神話に基づいており、智の神、ミネルヴァが、自然を象徴する牧神の像に寄りかかった、妖精である半裸の女性を描くのを、王冠を被ったアテネが見詰めている図です。

彼の壁画は他の3人よりも色彩が豊かに際立っており、ステンドグラス作成で培った絵画テクニックを発揮しています。

常設展用の部屋にはリベーラ、ドルチ、ドメニコ・ティエポロ、ステュアート、アルベルト・カイプ等。

フラ・アンジェリコ、フランチャ、ガロファロ、グイド・レーニ、コロー、ホーマー、カサット、マグリット等、美術館のホーム・ページには写真がある画家達の絵が観られなかったのは残念でしたが。

ブックショップでカタログ本と本にはない絵の絵葉書を全て購入して出ると、陽が差してきており、校内の樹々の紅葉が美しく輝いていました。

ここは大学付属美術館ではよくあることですが、館内撮影禁止。従って写真は美術館のホーム・ページから借用しました。