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美術館訪問記 – 534 アレンタウン美術館、Allentown

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アレンタウン美術館正面

添付2:ウッチェッロ作
「聖母子と聖フランチェスコ」

添付3:ベッカフーミ作
「キリスト生誕」

添付4:パスキン作
「エルミヌ・ダヴィット」

添付5:ギルバート・ステュアート作
「アン・ペン・アレン嬢」

添付6:グラッケンズ作
「ケイ・ローレルの肖像」

添付7:グラッケンズ作
「林檎のあるヌード」1910年
ブルックリン美術館蔵

添付8:フランク・ロイド・ライト設計の書斎

添付9:アレンタウン美術館内部

ニューヨーク市から西に120㎞程の所にアレンタウンという都市があります。ペンシルベニア州ではフィラデルフィア、ピッツバーグに次ぐ州第3の都市です。

ここの街中にあるのが「アレンタウン美術館」。

1934年設立ですが、その後1975年と2011年の拡張工事で現在の姿になっています。

細々とスタートしたコレクションでしたが、1959年、サミュエル・クレスからの53点のルネサンス、バロック絵画の贈呈で一挙に一流の仲間入りをしました。

何せここにあるウッチェッロは世界25か所にしかなく、ベッカフーミも併せて所有するという贅沢は、あのメトロポリタン美術館ですらかなえていないのです。ウッチェッロのこれだけ完璧なパネル画はそうそう観られるものではありません。

私も最初に訪館した時は、情報がなかったので、これらを観て驚愕したものでした。

サミュエル・クレスについては第206回で詳述しました。

その他にもスピネッロ・アレティーノやロレンツォ・ロット、ドッソ・ドッシ、ドメニコ・ティントレット、ステーン、アンニバレ・カラッチ等堂々たる品揃え。

アメリカ人画家のコレクションもベンジャミン・ウエストに始まりステュアート、レンブラント・ピール、ベアスタット、エイキンズ、ヘンライ、グラッケンズ、ミルトン・エイヴリーと一通り揃っています。

モンパルナスの王子と謳われたパスキンの一作もアメリカ人部門にありました。

彼は第一次大戦を避けてニューヨークに滞在した時に、後を追って来たフランス人女流画家エルミヌ・ダヴィットと1918年、ニューヨークで結婚しアメリカ国籍も収得していたのです。

添付図は結婚した年に描かれた彼女の肖像画。エルミヌは1930年に自殺したパスキンより40年長生きして1970年没。

ギルバート・ステュアートの素晴らしい肖像画「アン・ペン・アレン嬢」はこの町の創設者ウィリアム・アレンの孫娘を描いたもので、この美術館にふさわしく、1978年に美術館が買い求めたものです。

グラッケンズもアメリカの美術館では、かなりの確率で目にする画家ですがまだ説明していませんでした。

ウィリアム・グラッケンズは1870年フィラデルフィアの生まれで、高校卒業後、新聞社の挿絵画家として働きながら、フィラデルフィアの美術学校夜間部に通い、ジョン・スローンやロバート・ヘンライと仲間になります。

25歳でヘンライを含む画家仲間とヨーロッパに渡り、オランダ、パリで修業後、翌年帰国。前回のチェイスもそうでしたが、当時はヨーロッパで修業する事がアメリカで売り出す近道でした。同じ頃の日本もそうでしたが。

帰国後はニューヨークで新聞、雑誌のイラストレーターとして働く傍ら絵を描き続け、34歳で裕福な家庭の娘と結婚。昔の仲間たちがボヘミアンな生活を送る中、堅実な家庭生活を送りました。

スローンやヘンライたちの仲間8人で1908年に最初の展覧会を挙行後、彼らのグループは外部から「ザ・エイト」と呼ばれるようになります。

彼らは共通の流儀があったわけではなく、全く独自の道を歩む画家たちの集まりでしたが、各地で企画展を催し、徐々にメンバーの知名度は上がっていきました。

1910年にはパリに旅し、ルノワールに心酔して、「アメリカのルノワール」と呼ばれるほど似かよったスタイルの絵を描くようになります。

第11回のバーンズ・コレクションを創り上げたドクター・バーンズとは高校以来の友人で、グラッケンズの最良のコレクターでもありましたが、このパリ行きの際、彼に手数料を払ってグラッケンズの好みの絵を買って来るよう依頼します。

グラッケンズの購入したルノワールやセザンヌ、マネ、マティスなど20点程の作品が核となって、バーンズの鑑識眼を養い、その後のバーンズの2500点にも及ぶ素晴らしい収集品となって行くのです。

グラッケンズは1916年に新たに創設された独立芸術家協会の会長になったりして、フランスとの間を行き来しながら画家人生を楽しみつつ1938年急死しました。

美術館内にはフランク・ロイド・ライト設計のフランシス・リトル家の書斎が1部屋だけ移築されて再現されてもいました。