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美術館訪問記-48 アントワープ王立美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:ジャン・フーケ作
「フランス国王シャルル7世の肖像」
ルーヴル美術館蔵

添付2:ジャン・フーケ作
「 セルフィムとケルビムに囲まれた聖母子」

添付3:アントワープ王立美術館正面

添付4:アントワープ王立美術館内部

添付5:ルーベンス作
「キリストと二人の盗賊磔刑」

添付6:アンソール作
「陰謀」

前回のジャン・フーケについては聞いたこともないという方もおられるでしょう。 無理もありません。 世界11箇所に残ると書きましたが、 パネル画として残っているのは5箇所のみなのです。他は写本の挿絵です。

名前は知らなくともルーヴル美術館のリシュリュウ翼3階の 14~17世紀のフランス絵画のコーナーにある、 彼の「フランス国王シャルル7世の肖像」を目にされた方は多い筈です。

ジャン・フーケは1420年生まれのフランス人で、 フランスの画家としては初めてイタリアに行き、 ルネサンスの息吹に触れてフランスに戻り、宮廷画家になりました。

実は私が今迄数多く見てきた絵画の中で一番強烈なインパクトを受けたのは、 彼の絵なのです。

絵のタイトルは「セルフィム(熾天使)とケルビム(智天使)に囲まれた聖母子」。

玉座にいる、真っ白な陶磁器のようなつるりとした肌の聖母子が中央を占め、 左右を全身真っ赤な天使達と真っ青な天使達が取り囲むという絵柄ですが、 聖母は白い毬のような球形の左側の乳房を露出し、 青紫の現在風のワンピースを着て白いガウンを羽織っている。

マリアは宝冠を被り、下を向いていますが、 露出した広い頭部は真っ白に塗られているのみ。 幼子キリストは裸で全身真っ白。 聖母子の露出した部分で白以外の色が使われているのは 小さな唇の赤と瞳、影の黒、キリストの産毛のような毛髪の薄い茶色だけ。

天使達は赤と青色のみ。隙間は青色1色。 つまり玉座と宝冠、キリストの髪以外は赤と青と白色だけ。プラス僅かな黒色。 色彩は鮮やかで、宗教画の古臭さは全くありません。

何なのだ、これは。現代画家のカリカチュアなのか。 制作年代を見ると、何と1450年頃。ジャン・フーケ、30歳頃の作。 レオナルド・ダ・ヴィンチの生まれる前に、こんなぶっ飛んだ絵があったとは。

この時以来絵画に対する興味がいや増したのは言うまでもありません。

この絵があるのはベルギー、アントワープの「王立美術館」。 前後左右を道路に囲まれ、大都市アントワープ一の中心を占拠する、 ネオ・クラシック様式の建物です。 1890年の開館。2階建てで2階が古典絵画、1階が近代絵画。

フランドルの画家達が壮観です。ヤン・ファン・エイク、ウェイデン、メムリンク、 ピーター・ブリューゲルの息子達、マセイス、レンブラント、ハル、ステーンに アントワープ派の隆盛を支えた3人、ルーベンス、ダイク、ヨルダーンス。

加えてベルギー近代絵画の旗手、アンソール、デルヴォー、ペルメーク、 リック・ウォータース達が一望できます。

他にもシモーネ・マルティーニ、メッシーナ、ティツィアーノ、クールベ、ゴッホ、 モディリアーニ、ティソ、マグリット等。



注:

セルフィム(熾天使):天使の9階級のうち最上とされる天使で、3対 6枚の翼を持ち、2つで頭を、2つで体を隠し、残り2つの翼ではばたくとされる。 神への愛と情熱で体が燃えているため、熾(燃えるの意)天使といわれる。

ケルビム(智天使):天使の9階級のうち上から2番目とされる天使で、 神の姿を見ることができることから智天使という。

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