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美術館訪問記- 471 チューリッヒ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:チューリッヒ美術館本館

添付2:ハンス・ホルバイン父作
「紳士の肖像」

添付3:ストスコップフ作
「飲用容器の入った木棚」

添付4:アードリアン・イーゼンブラント作
「エジプトへの逃避」

添付5:フュースリー作
「妖精たちに囲まれたティターニアの目覚め」

添付6:ヴァロットン作
「夏の夕べの水浴」

添付7:ジョヴァンニ・ジャコメッティ作
「マローニャの冬」

添付9:ゴッホ作
「包帯をした自画像」

添付10:アンリ・ルソー作
「X氏の肖像(ピエール・ロティ)」

添付12:チューリッヒ美術館内

アーラウの東30㎞程の場所にスイス最大の都市、チューリッヒがあります。スイス中央部にあり人口40万余り、都市圏人口は180万を超えます。

細長いチューリッヒ湖の北端近くにあるのが「チューリッヒ美術館」。1787年に始まる長い歴史を誇る美術館ですが、現在の本館が開館したのは1910年。

古めかしい3階建ての美術館には正面右にロダンの「地獄の門」があり、その右手に企画展用に2階建てで奥行きのある近代的なビルディングが新設されており、ガラス張りの通路で結ばれています。

2階への階段を上がり切った直ぐの壁に、集団で拳を振り上げている図のホドラーの大きな壁画があり、その向かいがオールド・マスターの入口。

スイスを代表する美術館だけあって名品が並んでいます。著名な画家の手になる作品は美術本やガイド・ブックで容易に観られるでしょうから比較的馴染みの薄いであろう画家の作品を3点採り上げましょう。

まずホルバイン父の「紳士の肖像」。

ホルバインは名前も同じハンス・ホルバイン子の方が圧倒的に有名ですが、父も生まれ故郷のドイツ、アウクスブルクで名を成した画家でドイツ絵画をルネサンス様式に変革したリーダー的存在でした。

南ドイツでは彼の作品をよく見かけますが、後期ゴシック様式のものが多い。ここにあるものは珍しく力のある作品で、1520年頃と彼の最晩年にあたり、完全にルネサンス・スタイルをものにしています。

ストスコップフの「飲用容器の入った木棚」。

彼の作品はどれもまるで封印された時間を紐解くような、重厚な存在感、永遠不変の時の流れ、悠久性を感じさせてくれます。ストスコップフの作品は7カ国、20美術館にしか展示されておらず、貴重です。

3つ目はアードリアン・イーゼンブラントの「エジプトへの逃避」。

イーゼンブラントは1490年頃の生まれで、1510年ブルージュのヘラルト・ダヴィトの工房でパートナーとして働いた後大きな工房を構えたフランドルの画家です。

この絵は主要人物を近景に、中景には聖家族の逃亡の原因となった嬰児殺しが行われている村、遠景にはぼんやりとして青味がかった色調の空気遠近法で俯瞰的に描いた想像上の風景を配し、効果を上げています。

こういう構図は後にブリューゲル一族が受け継ぐことになります。

イーゼンブラントは、生存中国際的に知られた高名な画家で、1551年ブリュージュで没した時、遺族は少なくとも4軒の家屋と付随した土地を相続した記録があります。彼の作品は世界の主要美術館が所有しています。

近代部門では前回紹介したフュースリーの作品が15点もありました。彼がチューリッヒの生まれであることが大いに関係しているでしょう。

何処の国の美術館でも自国生まれの芸術家を中心に据えるのは当然で、まして自地生まれとなると特別扱いとなります。このため芸術家の全貌を捉えるためにも、彼らの生国と生地を巡る事になるのです。

一国の美術館を虱潰しに回っていると、同じ芸術家の作品を何度も目にし、その国で誰がポピュラーなのか判り、最初は馴染みの薄かった画家も、終わり頃には古くからの知己に会ったような気になって来るから妙です。

添付の「妖精たちに囲まれたティターニアの目覚め」はシェイクスピア作の喜劇「真夏の夜の夢」の一場面。

スイス生まれのヴァロットンは12点が展示されていました。

1893年のアンデパンダン展に出品された「夏の夕べの水浴」は、クラナッハの女性水浴図を下敷きに、ボッティチェッリやルノワールの裸婦像も参考にしながら、現代社会の風刺を込めて、女性達の髪形、表情、仕草を、当時彼が所属していたナビ派らしく装飾的に仕上げた意欲的な大作です。

スイスの生んだ世界的彫刻家アルベルト・ジャコメッティについては世界最大の150点の彫刻、20点の絵画、数多くの素描を保持しています。

絵画への興味の方が勝る私としては、アルベルトの父親のジョヴァンニの作品が29点も展示されていたのが喜びでした。

ジョヴァンニと生涯の親友であったクーノ・アミエの10点も嬉しい。この二人の画家はスイス旅行中に好みの画家たちに仲間入りしました。

スイス人以外の画家もムンク12点、ボナール10点、モネ、シャガール8点、セガンティーニ、マイヨール、ピカソ7点、ゴッホ6点、ヴィユヤール、ココシュカ5点、セザンヌ、マティス、キルヒナー4点など目白押しに並んでいます。

あえて3点を選ぶとするとゴッホの耳切事件直後の「包帯をした自画像」、アンリ・ルソーの「X氏の肖像(ピエール・ロティ)」、ピカソの青の時代に入る直前、19歳時の「自画像」でしょうか。

他にも、15世紀から現在までの素描や版画を集めた9万5千点のグラフィック・コレクションや、写真やビデオ作品の充実したコレクションなどもあり、世界有数の大美術館です。

3階から2階へ降りる階段の前にはホドラーの素晴らしい壁画がありました。彼の作品は壁画4点、油彩画25点が展示されていました。



(添付8:クーノ・アミエ作「二人の裸婦」及び 添付11:ピカソ作「自画像」は著作権上の理由により割愛しました。
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