前回触れたシャプタルの政令は、ナポレオンが政権掌握後、内務大臣に任命したシャプタルに命じ、1801年、ヨーロッパ中から略奪して来てルーヴル美術館に展示しきれなくなった美術品を15の地方都市に割譲させたのです。
15都市は当時フランスの支配下にあったジュネーヴ、ブリュッセル、マインツとストラスブール、トゥールーズ、ボルドー、リール、カーン、ディジョン、ナンシー、ナント、マルセイユ、リヨン、ルーアン、レンヌです。
フランス国内にある先頭の4都市は既にカバーしています。この際残りの8都市を順に見て行きましょう。
先ずフランス北西部に位置するカーン。中世からの歴史を持ち、ノルマンディー公兼イングランド王ウイリアム1世が1060年頃に建てた城は、西ヨーロッパでも最大級の中世城砦です。
第二次世界大戦の終盤、ノルマンディー上陸作戦の後、カーンは激戦地となり、街は灰燼に帰したのですが、1960年代初には復旧し、1971年カーン城内に再建されたのが「カーン美術館」。
入口前に第126回でも観たブールデル作の「モントーバンの戦士」がありました。
ここのイタリア絵画コレクションは素晴らしい。コスメ・トゥーラ、チーマ・ダ・コネリアーノ、ペルジーノ、ベッカフーミパリス・ボルドン、ティントレット、ヴェロネーゼ、ドメニコ・ティエポロなどが並ぶとつい昂揚して来ます。
特にペルジーノの「聖母の結婚」はデッサン力と色彩、構図が見事で彼の代表作の一つと言えるでしょう。
この絵は1501年から1504年にかけて描かれたと考えられていますが、ペルジーノの弟子だったラファエロが1504年に描いた、マリアとヨセフの位置を反転させたそっくりな絵がミラノのブレラ美術館にあります。
ティツィアーノの弟子のパリス・ボルドンの「受胎告知」は102 x 196cmの大画面に神のお告げを伝えに来た大天使ガブリエルが霞んで見える程、建物の方を中心に大きく扱った印象的な作品。
フランドル絵画、フランス絵画の品揃えも見事。
バルテュスの「ロブスター」は、彼の画集でも見た事のない特異な題材の絵で瞠目しました。
この美術館で初認識したのはジョアン・ミッチェル。ポロック同様、抽象表現主義の画家で、本人は「私は人生を、魂を描いている」と言っています。
彼女は1926年、シカゴに生まれ、幼少期から美術とスポーツに親しみ、1944年より奨学金を得てシカゴ・アート・インスティテュートに学んでいます。
1948-49年、奨学金によりパリに滞在、1950年秋ミネソタで最初の個展。1957年以降、「抽象表現主義の第2世代の画家」と評されるようになります。
1959年より主にパリで制作。1982年パリ市立近代美術館でアメリカの女流画家として初めて個展を開いています。
2014年5月、ニューヨーク、クリスティーズのオークションで彼女の作品「無題」が1192万5千ドルという歴代女流画家の最高落札額を記録しています。
(添付9:バルテュス作「ロブスター」、添付10:ジョアン・ミッチェル作「緑の草原」は著作権上の理由により割愛しました。
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