美術館訪問記-382 トレチャコフ美術館新館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ピョートル1世記念像

添付2:トレチャコフ美術館新館が入居しているビルディング

添付3:ミハイル・ネステロフ作
「若きヴァルフォロメイの聖なる光景」

添付4:クジマ・ペトロフ=ヴォトキン作
「赤い馬の水浴」

添付5:カジミール・マレーヴィチ作
「バケツと女」

添付6:イリヤ・マシコフ作
「カボチャ」

トレチャコフ美術館からモスクワ川沿いに1㎞程歩くと 「トレチャコフ美術館新館」がムゼオン公園の中にあります。

ピョートル1世記念像が直ぐ裏のモスクワ川の中州の先端に建っていました。 これはロシア海軍設立300年を記念して1997年に建造され、海軍創設者の ピョートル1世が帆船の上に立つ高さ97mという大彫刻。

ただピョートル1世は首都をモスクワからサンクトペテルーヴルクに移した人物で モスクワ市民からは嫌われているのだとか。

トレチャコフ美術館新館は1998年、トレチャコフ美術館の収蔵品から 20世紀のロシア美術を分離して開館。20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルド芸術 から現在に至るまでの作品が、数多く展示されています。

4階建ての横長のコンクリート製箱型近代建築に、他の商業施設と同居しており、 建物の外は、彫刻公園となっていて、広い公園内に彫刻が並んでいました。

入ると天井までの広い吹き抜けになっており、まず階段で3階に上がり 訪れた2013年は、生誕150年記念で前年夏から開催されていた ロシア象徴主義のリーダー、ミハイル・ネステロフ(1862-1942)の特別展を観ました。

普段は本館にある彼の代表作、「若きヴァルフォロメイの聖なる光景」も来ており、 この絵は至聖三者聖セルギイ大修道院の創設者で、ロシアの最も偉大な聖人の一人 として人々の崇敬を受けているラドネジの聖セルギイがまだ修道士になる前、 洗礼名ヴァルフォロメイといっていた頃の森の中での奇跡を描いたものです。

ロシア象徴主義は19世紀末から20世紀初にかけ、ロシアで支配的だった 芸術運動で、ネステロフが1890年に発表したこの絵は絵画分野における ロシア象徴主義運動の幕開けを告げる作品と見なされています。

続いて4階に上がり1910年以降のロシア人画家・彫刻家の作品を観て行きます。 4階だけでも38室あり、かなり広い展示スペースです。

シャガールの街の上を飛ぶ恋人達とカンディンスキーの良い抽象画が3点、 ヤウレンスキーも1点ありました。

本館同様、幾つか印象に残った作品を年代順に挙げてみましょう。

クジマ・ペトロフ=ヴォトキン(1878-1939)の「赤い馬の水浴」。 この美術館を代表する名画で、1912年に描かれ、中央を占める赤い馬は 1917年に勃発したロシア革命を代表する作品となりました。

ペトロフ=ヴォトキンの祖父はペトロフという名前でしたが、大酒飲みで、 ヴォトカ(火酒)飲みという意味のヴォトキンが加わった姓になったとか。

カジミール・マレーヴィチ(1879-1936) の「バケツと女」。 前衛芸術運動「ロシア・アヴァンギャルド」の創始者で、ロシアで抽象絵画を 手掛けた最初の人物。純粋に抽象的な理念を追求し描くことに邁進した画家。

イリヤ・マシコフ(1881–1944) の「カボチャ」。 「ダイヤのジャック」という、1910年にモスクワで結成された急進的な美術家集団 の中心的画家。静物画の色彩バランスが心地よい。 美術学校の学生時代に西欧を旅行し、セザンヌやマティスの影響を受けています。

ウラジーミル・レーベデフ(1891-1967)の「ティシタ・ヴォリーナの肖像」。 著名なイラストレーター、絵本作家、肖像画家。

タチヤーナ・マーヴリナ(1900-1996)の「ライラックと女」。 女流画家。絵本作家としても有名。魔法昔話や創作メルヘンの挿絵で評価が高い。

ユーリ・ピメノフ(1903-1977)の「新しいモスクワ」1937年。 画家の生きていた時代の生活をテーマに心象風景を描く画家。 自動車を運転する女性の姿は、当時はかなり珍しい光景だった。 この絵は、新しい時代の生活、そして新しいモスクワの象徴として 画家の同時代の人々が目にした様子を捉えています。

タヒール・サラコフ(1928-) の「アイダン」1967年。 アルゼバイジャン出身の画家。アイダンは娘の名前。 この絵は2011年にロシアの切手に採用されています。

オレーグ・ツェルコフ(1934-)の「ナイフのある肖像画」 1992年。 ロシアのアングラ・アートの画家で、1977年フランスに亡命。 パリから300㎞程の農園を手に入れ、そこに2階屋のアトリエを建て制作。

元々、舞台美術家でしたが学生時代の周囲の詩人や芸術家の影響で抽象画を始め、 その後画風は目まぐるしく変化して行きましたが、 一貫して人の顔が主題になっています。

この絵はシンプルですがインパクトがありました。

(添付7:ウラジーミル・レーベデフ作「ティシタ・ヴォリーナの肖像」、添付8:タチヤーナ・マーヴリナ作「ライラックと女」、 添付9:ユーリ・ピメノフ作「新しいモスクワ」、添付10:タヒール・サラコフ作「アイダン」および添付11:オレーグ・ツェルコフ作 「ナイフのある肖像画」 は著作権上の理由により割愛しました。
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