美術館訪問記-377 聖ヤコブ寺院

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:聖ヤコブ寺院正面

添付2:聖ヤコブ寺院内部

添付3:聖ヤコブ寺院天井

添付4:中央祭壇

添付5:中央祭壇中心部

添付6:クラナッハ作
「聖母子像」

添付7:ラファエロ作
「牧場の聖母」
ウィーン美術史美術館蔵

添付8:クラナッハ作
「聖母子像」
バーゼル市立美術館蔵

添付9:マクシミリアン3世の墓碑

添付10:聖ヤコブ寺院内パイプオルガン

前回のチロル州立博物館から西北に300mも行くと「聖ヤコブ寺院」があります。 ドームとも呼ばれます。

第252回のサン・マクルー大聖堂の中で大聖堂と聖堂、普通の教会との違いを 説明しましたが、ドイツ語では司教座のある大聖堂のことをドームと言います。

ではキリスト教の教会をなぜ「大聖堂」ではなく「寺院」と呼ぶのか。

これは単なる日本語の慣習で、パリのノートルダム寺院とか第198回の ウィーンのシュテファン寺院のように普通に使われています。

「大聖堂」という言葉が使われだしたのは比較的最近の事で、それ以前に 日本に伝えられた著名な司教座のある教会を普通の教会と区別するために 「寺院」という用語を充てていたのが、変更するにはあまりにも一般的に 馴染み過ぎているため、そのまま使用されて来ているのです。

聖ヤコブ寺院はローマ・カトリック、チロル地方の総本山になる大聖堂で、 12世紀に造られたロマネスク教会の跡に1717年から1724年にかけて造られた バロック様式の建物。

両脇に時計付の塔がある完全にシンメトリーなファサードで正面扉は三つ。

普通は扉が三つあれば、内部は三廊式になっていますが、 ここは大聖堂では珍しい単廊式で、サーモンピンク色の大理石の太い柱や それに合わせた色合いの天井のフレスコ画や漆喰装飾で、 ほのぼのとした雰囲気を漂わせています。

内装は南ドイツで活躍したアザム兄弟が担当し、 兄のコスマス・ダミアンが鮮やかな壁や天井のフレスコ画を描き、 弟のエギト・クヴィリンが植物をモティーフにした化粧漆喰で装飾しました。

中央祭壇は金銀彫刻で飾られた豪華なものです。 その中央に素晴らしい出来のクラナッハの「聖母子像」がありました。 修復されたらしく目に痛いような鮮烈な色彩で、光り輝いています。

それにしてもこの聖母マリアの髪は随分長い。

マグダラのマリアの髪の毛は、キリストの死後長い間、身の周りを構うことなく 洞窟で隠士生活を送ったということから異常に長く描かれるのですが、 ラファエロの有名な「牧場の聖母」のように聖母マリアの髪は普通短く描かれます。

どうもこれはクラナッハの好みの様で第187回のバーゼル美術館にあった クラナッハの聖母マリアの髪は、聖母としては少しどうかと思える形状なのでした。

聖堂の一角には、チロル領主だったマクシミリアン3世(1558~1618年)の墓碑が あります。墓碑の上ではマクシミリアン大公が跪いて祈りを捧げ、 彼の背後には聖グレゴリウスがいます。

大聖堂の入口上部にある、チロルで最も美しいと言われるパイプオルガンの装飾は インスブルック出身の彫刻家ニコラウス・モルの作品です。