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美術館訪問記-343 シエナ国立絵画館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:シエナ国立絵画館

添付2:グイド・ダ・シエーナ作
「聖母子と4聖人」

添付3:アンブロージョ・ロレンツェッティ作
「受胎告知」

添付4:サッセッタ作
「海辺の町」

添付5:フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ作
「聖母戴冠」

添付6:ソドマ作
「イエス生誕」

添付7:ドメニコ・ベッカフーミ作
「シエナの聖カテリーナの聖痕」

添付8:ドメニコ・ベッカフーミ作
「聖母の誕生」

添付9:ロレンツォ・ロット作
「イエス生誕」

添付10:パリス・ボルドン作
「受胎告知」

シエナはフィレンツェと張り合ってきた古都だけに 観る価値のある美術品を有する施設も多く、10指では足りません。 既に4つカバーしましたが、この際残りも見て行きましょう。

シエナの絵画を観たければ「シエナ国立絵画館」へ行くのが一番です。

この絵画館は18世紀後半の修道院長ジュゼッピ・チアッケリの絵画収集を基に, 1816年に美術学校の付属美術館として発足。

1930年に国家に移管され,15世紀前半に建築されたブオンシニョーリ宮殿に移転。 1932年に公開されました。

2階から4階まで38もの展示室にシエナ派の13世紀から16世紀までの 主要画家をほぼ網羅した一大コレクションを誇っています。

3階の1号室から2階の37号室まで年代順にシエナ派絵画が並びます。

最初の特定されたシエナの画家はグイド・ダ・シエーナで 1260年頃から1280年頃までシエナで活動しています。 彼の作風は完全なビザンティン様式で この後にドゥッチョが出てシエナ派を築くことになるのです。

そのドゥッチョやシモーネ・マルティーニ、 アンブロージョ・ロレンツェッティの作品も相当数展示されています。

中で目を引いたのは西洋画史上初めての風景画とされるサッセッタの「海辺の町」。

この絵は15世紀の前半に描かれており、長い間 アンブロージョ・ロレンツェッティに帰属されていましたが、 最近の研究でサッセッタの作と考えられるようになっています。

サッセッタは本名ステーファノ・ディ・ジョヴァンニ。 なぜサッセッタと仇名されるのかは不明なようです。

1400年頃シエナの生まれで、国際ゴシック様式の装飾的絵画の伝統を 受け継ぐと同時に,フィレンツェに始まったルネサンスの新しい息吹を、 自身の神秘的な想像力で表出していこうとしていました。 シエナ派を代表する一人です。

続いて目に留まったのは フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニの「聖母戴冠」。

添付図ではよく解らないかもしれませんが、右下隅の女性達の描写は 実に現代的で、とても15世紀後半に描かれたとは信じられません。

マルティーニは1439年シエナの生まれで、画家で彫刻家、建築家、軍事技術者。 1476年頃にウルビーノに移り、建築家兼軍事技術者として 領主のフェデリコ・ダ・モンテフェルトロに仕えました。

彼が1480年頃に著したと推定される「建築論」は、イタリア・ルネサンス期の 建築理論を語る上で画期的な本で、同じような技術を持ち、万能の天才と謳われた レオナルド・ダ・ヴィンチの確認できる唯一の私蔵本で、1490年、レオナルドが パヴィアに滞在していたマルティーニを訪ねて教えを乞うた程なのです。

2階には私の好きなソドマとドメニコ・ベッカフーミが多数展示されています。

ソドマは第53回のモンテ・オリヴェート・マッジョーレ修道院で採り上げました。

ドメニコ・ベッカフーミも何度か触れて来ましたがここで詳述しましょう。

彼は1486年シエナ近郊の農家の生まれで、父が働いていた農園の主人、 ロレンツォ・ベッカフーミに画才を認められ、名前を名乗ることを許されます。

地元の画家の下で修業後1510年頃ローマに出ます。 当時ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井画に取り組んでおり、 ラファエロが署名の間の装飾にかかっていた頃でした。

1512年、シエナに戻り以後1551年に亡くなるまで シエナで第一人者として活動を続けます。

同じころローマに出たソドマがレオナルド・ダ・ヴィンチの自然主義的で健康的、 安定した様式の影響を強く受けたのに対し、ベッカフーミはシエナ派の 神秘主義的で幻想的で不安定、彩色も非現実的で、霧が立ち込めたような、 どこか感情の破綻を感じさせるところがある画風に固執しました。

それだけに当時の他の画家達にはない独創性と独自性が強く、画壇の主流ではなく、 知る人はごく少ないものの、私の好きな画家の一人なのです。

4階はシエナの貴族だったスパンノッキのコレクションに充てられています。

ここにはデューラーやロレンツォ・ロット、パリス・ボルドン、 モローニ、ソフォニスバ・アングイッソーラ、モンターニャ、ヴェロネーゼ等が 並んでいて思わぬ眼福に預かれたのでした。