美術館訪問記-271 アメリカ・ ヒスパニック・ソサエティ

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ゴヤ作
「アルバ女公爵」

添付2:ゴヤ作
「アルバ女公爵」足下拡大図

添付3:ゴヤ作
「アルバ女公爵」右手拡大図

添付4:アメリカ・ ヒスパニック・ソサエティ外観

添付5:アメリカ・ ヒスパニック・ソサエティ内部

添付6:ソローリャ作
「スペインの未来像」展示室

添付7:ベラスケス作
「少女の肖像」

添付8:ルイス・デ・モラレス作
「糸巻きの聖母」

ゴヤを理解するために忘れてはならない1枚の絵があります。

それは「アルバ女公爵」。

女公爵というのは、普通貴族称号は男性が継承する場合が多いので、その配偶者は 公爵夫人と呼ばれるのですが、アルバの場合は自身が14歳でスペイン最高位の貴族 アルバ公爵位を継いで第13代アルバ公となっているためです。

2014年11月、第18代のアルバ女公爵が88歳で死亡しましたが、 彼女の遺産は1兆円から5兆円の間と見積もられるスペイン1の資産家です。 膨大な土地や幾つもの邸宅、財宝所有のため、正確に把握できないのです。

しかも第13代アルバ女公爵は絶世の美女として、当時の詩人達からヴィーナスに 見做されるほどでした。

1797年にゴヤが描いた「アルバ女公爵」ですが、20世紀にこの絵を補修した際、 アルバ公の右手が指差す地面に“Solo Goya”と書いた文字が発見されたのです。 Solo Goyaとはスペイン語で「ゴヤだけ(を愛する)」という意味です。

夫を亡くしたばかりのアルバ女公爵が1796年の夏にサンルカールの別荘に 滞在していた時に画家も同別荘へ訪れるなど、この頃、両者の関係は極めて 親密であったと考えられています。

黒い喪服を着た彼女は右手に2つの指輪をしていますが、 それぞれの指輪には“Alba(アルバ)”と“Goya(ゴヤ)”と彫られています。

この絵はアルバ女公爵の依頼で描かれたのですが、結局彼女の手には渡らず、 ゴヤが死ぬまで保持していました。 ちなみに第13代アルバ女公爵は1802年に40歳の若さで死亡しています。 彼女の死には謎があり、恋敵だったスペイン王妃による毒殺説も囁かれました。

この絵を所持しているのはニューヨーク市ウエスト144丁目にある 「アメリカ・ ヒスパニック・ソサエティ」。

オーデユポン・テラスと呼ばれるクラッシック・ボザール建築の荘厳な建物に、 スペインの絵画、彫刻、陶器、地図、書籍などスペイン、ポルトガルの 歴史的コレクションを収めています。

入ってすぐは2階まで吹き抜けのホールになっており、2階は回廊になって 壁に絵画が展示してあります。そのホールの1階は幾つもアーチが並んだ回廊に なっており、その回廊の真ん中にゴヤの「アルバ女公爵」が飾ってありました。

等身大の大きな絵です。添付の写真では見えるかどうか判りませんが、 肉眼ではアルバ女公爵の足下にハッキリ“Solo Goya”の文字が見えました。

そのホールの隣に2階まで吹き抜けの広い部屋があり、天井は全面、白色ガラス。 この部屋の周囲の壁一杯にソローリャの「スペインの未来像」がかかっています。

これはアメリカ・ヒスパニック・ソサエティの設立者 アーチャー・ハンティングトンの出資でソローリャが1911年から1919年に 亘って描いた、彼最晩年の力作です。

2階への階段の壁にはローマ時代のモザイクがあり、2階の小部屋には スペインの黄金時代の焼き物がズラリと陳列されていました。

2階の回廊にはグレコ、リベーラ、ベラスケス、スルバラン、ムリーリョ、ゴヤ、 ルイス・デ・モラレス、ソローリャ等スペインの誇る画家達が勢揃い。 どれも傑作でした。