エル・パソ空港からフェニックスに飛び、車を借りて、 ツーソンまで2時間程のドライブで「アリゾナ大学美術館」に着きます。
サンタフェのあるニューメキシコ州、エル・パソのテキサス州、このアリゾナ州と 澄んだ空気と強烈な日差しの下でドライブしていると、 直射日光を浴びなくても、道路や荒野の照り返しで顔や手がヒリヒリしてきます。
大学構内にある美術館には警備管理者のバッジをつけた、70歳近くに見える 小柄な可愛らしい女性が受付に座っていました。
展示室になっている2階の入口にサミュエル・H・クレス・コレクションと 金文字で掲げられた一角がありました。
スペインの画家、フェルナンド・ガジェロとマエストロ・バルトロメの宗教画が 一部屋を取り巻いています。 修復されているのか、1490年頃の作品群とはいえ、年代を感じさせない美しさ。
隣の部屋には、ヴィットーレ・クリヴェッリ、カルパッチョ、モローニ、 ドメニコ・ティントレット、ティエポロ等の錚々たる顔触れが並びます。
総計60点ほどがクレスから寄贈されていました。
サミュエル・クレスのアメリカ美術界に及ぼす影響の偉大さには頭が下がります。
観て回る立場からは、1箇所に纏めてくれれば、 どれほど時間と経費の節約になるかとは思いますが。
ヴィットーレ・クリヴェッリはカルロ・クリヴェッリの10歳下の弟で、 兄を師として腕を磨いたようで、イタリア、マルケ地方を旅すると田舎の教会で 兄と一緒か単独で彼の祭壇画をちらほら見かけます。
兄とよく似た画風ですが、少しひ弱で、もう一つ絵に力がない。
ドメニコ・ティントレット(1560-1635)は、 普通単にティントレットと呼ばれている、16世紀のヴェネツィア派を ヴェロネーゼと並んで代表する、ヤコポ・ロブスティの息子で、 父親ほどではないですが、よく見かけます。
彼の絵も父親によく似ています。
妹のマリエッタ・ティントレットも当時、女流としては有名な画家でした。
単にティントレットだけを見て、これら3人を混同しないよう注意が必要です。
ティントレットとは「染物屋」という意味で、 ヤコポの父親が染物師だった事から、この名が通称になりました。
大学独自のコレクションには、マイヨールの彫刻の他は これというものが展示されていませんでした。
小さなブックショップにはカタログ本も絵葉書もありません。
くだんの女性に聞くと、警備管理者らしいテキパキとした調子で、 「残念ですが絵画のカタログ本はありません。プリントのカタログ本はありますが。 それに当館には約3000点のコレクションがありますが、展示場が狭く、 お見せしているのは10%にも達しません。」ということでした。