美術館訪問記 No.13 フィラデルフィア美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

フィラデルフィア 美術館正面

フェルメール作
「ヴァージナルの前に座る若い女」
個人蔵

セザンヌ作
「 大水浴」
 ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵

セザンヌ作
「 大水浴」
 バーンズ・ファウンデーション蔵

セザンヌ作
「 大水浴」 

ルノワール作
「水浴する人々」 

ゴッホ作
「ひ まわり」 
世界に5作あるゴッホの10花以上ある「ひまわり」の一つ

フェルメールついでに、 アメリカ、フィラデルフィア市にある「フィラデルフィア美術館」に触れましょう。 前々回のメリオンのバーンズ・ファウンデーションから東南に7km程の所にある、 ギリシャ神殿のような建物がそれです。

2004年、それまで贋作とみなされていた25.2cm x 20cmの小品 「ヴァージナルの前に座る若い女」が、専門家による鑑定の結果、 キャンバスと絵具が17世紀のものであることが明らかとなり、 フェルメールの真作と見なされ、 サザビーズのオークションで33億円の値がついたのです。

これが加わることによりフェルメール現存作品が最大公認数37作となりました。

買ったのは個人でしたが、 2004年の秋から半年間、フィラデルフィア美術館に寄託、展示されました。 当時、たまたまニューヨークに出張があったので、 フィラデルフィアまで車で片道3時間近くかけて、観てきました。

私には第一感、真作というには違和感がありました。 フェルメール関連の著作の多い小林頼子さんに、後日お会いした時に伺うと、 彼女も否定的意見でした。

しかし、それは幾多の専門家も陥った既成概念による判断だったようです。

昨年テレビ朝日でこの絵に関する特集番組をやっていました。 それによると、ベルギーのロラン男爵という絵のコレクターが ロンドンの画廊でこの絵を発見。 画廊の主人はフェルメール風の偽物と言う。 本物と確信したロランは自分の所有していた4枚の絵と交換。1960年のことでした。

ロランはその後可能な限りの専門家に鑑定を依頼しましたが、全て偽物との判定。 諦めきれない彼は、1993年、 有名な美術品オークション会社のサザビーズに持ち込みました。 サザビーズはロンドン、ナショナル・ギャラリーに鑑定を依頼するも、 偽物との判定。

最後の拠り所として、科学鑑定の専門家、 ロンドン大学のリビー・シェルドン教授のもとへ。

彼女はフェルメールが多用したフェルメール・ブルーとも言われる 高価な青色顔料貴石、ラピスラズリがこの絵でも使用されているのを発見。 決め手としてX線解析により、誰しもがフェルメールの真作と認める、 ルーヴル美術館の「レースを編む女」とキャンバス生地の織目がこの絵のキャンバスとピタリ一致することを証明。

つまり同じキャンバス生地を裁断して2枚の絵が描かれた事が 明らかになったのです。

こうなると異論を挟む余地はなくなり、2004年のオークション開催。 6億円からスタートしたセリは3分後33億円で落札。 しかしロラン男爵はこの結果を待てず、2001年に死亡していました。

ところでフィラデルフィア美術館はアメリカでもトップ・ファイブに入る、 素晴しい美術館です。 クラシックからモダンまで名品がズラリと勢揃いしています。

一つ一つ挙げればキリがありませんが、 最も有名なものの一つがセザンヌの「大水浴」です。

セザンヌは水浴のシリーズを描き続けていますが、 その仕上げとして3点の大作に取り組みました。 一つはロンドンのナショナル・ギャラリー、 もう一つは何とバーンズ・ファウンデーションに、 そしてセザンヌの最後の油絵であり、彼の芸術の到達点とされる「大水浴」が、 フィラデルフィア美術館にあるのです。

208.3cm x 251.5cmの大作で、セザンヌが死んだ時、 この絵がアトリエに立てかけられていたといいます。

画面中央下部にある、キャンバス生地そのままの塗り残しの部分は、 それを取り巻く3人の女性の伸びた手が求める、表す事のできない、 究極の美なのでしょうか。 それとも、描き終える前に力尽きたのか。

セザンヌ(1839-1906)はフランス、エクス・アン・プロヴァンスの生まれ。 「色彩の魔術師」マティスをして「絵画における神」とまで言わしめ、 絵画の新たなアイデンティティを築き上げ、 キュビズムなどに多大な影響を与え、「近代絵画の父」と呼ばれます。

彼は印象派から出発して、40代で独自のレベルに達します。 ある瞬間の光の効果を描いた印象派とは異なり、 持続性のある、確固たる物質の存在感を表現しようと試みたのです。

そのために現実の世界を単純な立体図形の組み合わせとして捉えました。 セザンヌの斬新な画風は当時の人々には殆ど理解を得られませんでしたが、 後に続く画家達にはまさに革命的な啓示だったのです。

彼の有名な言葉に、
「自然を円筒、球、円錐によって扱いなさい。」
「画家の仕事は単に対象を真似て描く事ではなく、自分の目と感性で物を捉え直し、表現することだ。」
「芸術というのは宗教的修業のようなものだ。肉体も精神も全て捧げなければならない。」

注: 

キュビズム:1907年ピカソの描いた「アビニヨンの娘達」に始まるピカソとブラックが先導した現代美術の大きな潮流。
それまでの絵画の一つの視点から見て描く手法を捨て、対象を多視点から見て描く革命的な手法で、多くの追随者が出た。 対象を立方体(キューヴ)の集合として捉えた絵という事からこの名がついた。 キュビスム、キュービズムとも言う。

 

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