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カテーテルアブレーション体験記

知り合いに心房細動の治療でカテーテルアブレーションを受けることになったと話すと「自分も心房細動と健康診断で指摘された」などという人が何人かいたので集めた情報とともに体験記として掲載する。

ここに述べていることは、医師から説明されたことでも聞き間違いや誤解の可能性もあり、自分で調べたことも出来るだけ複数の情報で確認したつもりだが正しくないかもしれないので、了承して頂きたい。

筆者は1947年6月17日生まれ、手術を受けた2019年6月12日時点では71歳、身長170.5センチ、体重64キロ、男性。

経緯

4、5年ほど前から胃の調子が悪い時や疲れた時など、とくに食事の後や就寝時に、左胸上部に痙攣するような自覚症状があり、長年誕生月に人間ドックを受診している東京都町田市の多摩丘陵病院で検査していた。 数年前にピロリ菌の除菌をした後、重い逆流性食道炎になったことから胃の不調が原因かと思っていたが、心電図検査や24時間心電図検査も受けた。

24時間心電図検査の最初と2度目は異常が見つからなかったが、症状が出た時に自分で脈をとると不規則なことが何度かあって、次第に頻度が増したように感じていた。納得したいと自分から依頼した3度目の心電図で心房細動が見つかった。
心房細動は、心房が痙攣したように不規則に震え不整脈になり血流が滞ると血栓ができ脳梗塞の危険が増すという。長嶋さんや小渕元総理が罹っていたとのこと。

定期的に血液検査をしながら、メインテート錠0.625mgとリバロ錠2mgを1年半ほど服用していた。

LDLコレステロールはかなり下がった(170->100)、左胸上部の痙攣感は頻度は少なくなったようだが時折出ていた。

薬の副作用のせいか次第にとても疲れるようになり、多摩丘陵病院に北里大学病院から毎週土曜日に派遣で来ている循環器担当医師から、カテーテルアブレーションという手術を紹介され、時期的に早い程効果があるとのこと。

心房細動の治療としてカテーテルを使うことは情報として知っていたとは思うが、もっと症状が重い場合で自分の場合は現状では関係ないと思っていた。いささか希望的観測でもあった。

アブレーションという初めて聞く治療方法、まさか手術とは思ってもいなかったので、3ヶ月後の次回検査日まで猶予をもらった。

これまで一度も入院、手術も受けたことがなくましてや心臓の手術と聞いて恐怖心が先立つが、ネットで多くのサイトから情報を集めた。

(イラスト:トーアエイヨー サイトより)

心房細動の多くが肺静脈から発生する刺激によることから、カテーテルアブレーションは、足の付け根の静脈からカテーテルを挿入し、左心房と肺静脈の間にやけどを作ることで、肺静脈から発生する刺激を心房に伝わらなくする治療(肺静脈隔離)方法。

心房細動の治療方法として確立されており、広く行われているとのこと。

このまま薬を続けてリスクを抑えていっても根本的な解決にはならず、いつかは手術をうけなくてはならないかもしれない。後述するように手術をするなら早いほうがよいようだ。

結局ここで状況を変えなくてはと考え、意を決して神奈川県相模原市の北里大学病院を紹介してもらった。

3月25日に北里大学病院の循環器内科で初診外来担当医師による手術の説明と意思確認。この時までは発作性心房細動の手術の成功率が90%ぐらいと思っていたが80%と言われて意外に思った。後で分かったが90%は2回、3回とアブレーションをうけた場合らしい。

4月9日に手術担当医師の診察を受け、手術の予定が1ヶ月以上先まで混んでおり、5月の連休を挟んでいることや、5月後半はこちらが他の予定があって、私の場合は急ぐ必要はないとのことで、6月11日入院、12日手術に決まった。手術時間は胸を開くわけではないので1時間から数時間ほどで入院日数は3泊4日とのこと。

心臓の手術なので外科と思ったが循環器内科だった。また手術とは言わず検査としている資料もあるが自分では手術と思う。請求書の診療費区分でも手術になっている。

当然、手術ということから血管が破損したり他の組織に影響を与えることも説明され、もしもの場合は病院の総力を挙げて対処するとのこと。

北里大学病院のホームページによると、循環器内科のカテーテルアブレーション = 経皮的カテーテル心筋焼灼術の実績 が366件(2018年) とあった。

私の父親が69歳の時心不全で亡くなっている。心臓病が遺伝するかは分からないが、酒に弱いところや胃弱、低血圧、アレルギー傾向のあるところなど自分では体質が父親に似ていると思っている。

心臓の構造と心電図の基本

北里大学病院への紹介状とともに、分厚い、封がされていない「ホルター心電図検査報告書」の入った封筒が渡された。

北里の初診受付で紹介状とともに提出すると「こちらはお持ち帰りになりますか」と尋ねられたので「参考のために持ち帰る」と答えたところ「患者様持参資料、内容確認後 患者様へ返却してください」とラベルを張られ、診察後に返してくれた。

最初は専門用語がよく分からなかったが、調べてみると次第に分かる部分が出てきて、医師の勧めに従った今回の手術の決断が正しかったと思うようになった。

自分で集めた情報を整理してみた。

(イラスト:不整脈ドットコムサイトより)

まずは、心電図(体表面心電図)から。

(*)ヒス束、プルキンエ線維とも発見した学者の名に由来。
  ウィルヘルム・ヒズ・ジュニア(Wilhelm His Jr. スイス 解剖学者 1863~1934)
  ヤン・エヴァンゲリスタ・プルキニェ(Jan Evangelista Purkyně チェコ 生理学者 1787∼1869)

ホルター心電図 検査報告書

2018年12月6日~7日のホルター心電図(24時間心電図)の結果。

ホルター心電図検査報告書には登録波形リストというサマリーページがあり、時間経過とイベントの関係が分かる。

心電図には計測位置により数本の波形を同時時間軸に並べて表示している。それぞれを誘導と呼ぶ。

心房細動

(イラスト:日本心臓財団サイトより)

心房細動(atrial fibrillation; af)は、心房で生じた異常な電気的興奮による不整脈。心房が痙攣したように不規則に震え、脈が不規則に速くなる。

発症後の発作の持続期間によって、発作性(7日以内に自然に戻る)、持続性(7日以上戻らない)、長期持続性(1年以上)に分けられる。私の場合は発作性心房細動である。

心房細動は、それ自体は死に直結しないが、心房細動が起こると、心房内から血液がうまく送り出されなくなり、血栓(血液のかたまり)ができやすくなる。この血栓が血流にのって脳まで運ばれ、脳の血管を塞いでしまうのが心原性脳塞栓(しんげんせいのうそくせん)という脳梗塞の一種で、脳の太い血管が一気に詰まるため、重症化しやすく死亡率も高い。

心房細動患者の約半数は発症後7日以内に正常な脈(洞調律)に戻る発作性心房細動だが、治療を行わないでほうっておくと、発作性から持続性へと進行し、脳塞栓症や死亡リスクがさらに上昇する。しかし、早い段階で治療を行うほど治療成績が高いことが期待されるため、できる限り早く心房細動に気づき、早期に適切な治療を行うことが重要である。

心房細動がある人はない人と比べると、脳梗塞を発症する確率は約5倍高いと言われている。(国立循環器病研究センター)

心房細動は高齢になると罹る割合が多くなり、ある調査によると60歳代で2%、70代5%、80代8%という。

 参考:心房細動の原因 (国立循環器病研究センター)

カテーテルアブレーション

(イラスト:不整脈ドットコムサイトより)

正式名は経皮的カテーテル心筋焼灼術という。英語ではCatheter ablation、アブレーション(ablation)は「取り除くこと、切除すること」という意味。

1982年にアメリカで行われ1994年から日本でも保険適用になった。
不整脈の治療方法として国内だけでも、2016年で実施数は7万件を超え実施施設は600施設を超えて(日本循環器学会)行われており、機器の改良や治療方法の安全性・有効性も進歩している。

カテーテルアブレーションで治療できる不整脈
 心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心室頻拍、心室期外収縮など、ほとんどの不整脈を治療することができる。
 発作性心房細動の長期成績
 発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションの治療成功率は、1回目の治療で1年後に70%、5年後に60%。再発した場合に再度アブレーションを受けることにより、最終アブレーションの1年後に90%、5年後に80%という。

それぞれ一長一短があり、どの方法を使うかは診断の結果によるとのこと。

北里大学病院

紹介された神奈川県相模原市にある北里大学病院は、我が家からは車で40分ほどの距離にあり、何度か圏央道に向かう途中に前を通ったことはあったが、紹介状を持参して入館してみると、これまで見たこともない大規模病院で驚いた。

病院に関するデータによると、37の診療科があり、医師376人、看護師1,329人、1日平均外来患者数が2,245人、総病床数1033、1日平均入院患者数944人。(病院情報局サイト)

2度目からは診察券を受付機械に通すことにより行く先が指示され、待合室は外待合と中待合の2段階になっており順番がモニターに数字で表示され、支払いまで全て自動化されており極めて効率が良い。

手前が健康情報館「けやきサロン」、左奥がスタバ

院内には、理容室、美容室、花屋、書店(有隣堂)、コンビニ(ファミリーマート)、レストラン、銀行ATM、スターバックスなどがあってさながら大きなホテルのようだ。

コンビニ向かいのラウンジでは、飲食が出来て待合室と同じモニターがあり待ち順番が分かる。

手術後約1ヶ月後の通院の日、循環器内科と泌尿器科の掛け持ち受診で2時間ほど待ち時間があったが、退屈は感じなかった。

『患者中心の医療』『共に創り出す医療』『人としての尊厳の維持』『自立支援・回復支援』を病院の理念として掲げているように、患者対応がしっかりしていると思った。

初診・入院・手術・退院・退院後のタイムテーブル


(*1) : 手術担当医師は平成17年北里大学卒・助教
(*2) : プラザキサカプセル110mgは、心臓内を焼灼するため、術中・術後に血栓が出来やすくなるのを防ぐ
(*3) : CT検査で使われるヨード造影剤がまれに副作用を引き起こすことがある、ということで同意書を提出。検査中造影剤が血管に注入され全身が急に熱く感じたが事前に十分な説明があり特に問題はなかった。
(*4) : 心筋梗塞などで心筋に炎症や変性が起こると、心室内に心室遅延電位という微小な電位が発生する場合があり、致死性の心室性不整脈を起こす可能性がある。
(*5) : シャワー室で専用の電気カミソリを使って自分で体毛を剃った。足の付け根に絆創膏を張るので剃らなくてはならない。剃毛(ていもう)ともいう。

入院

病室

入院という人生初めての経験の日。落ち着いているつもりだがどこか興奮しているのが自分でもわかる。

またしても検査の連続。X線検査、心電図、血液検査という。一週間前にも9本の採血があり予約票の項目と違うので間違いではないかと再確認した。

検査が終わって、本館の入退院受付で書類を提出した後、1号館4階N翼病棟へ。

一日当たり5,000円の4人部屋の窓際ベッドを案内された。無料のテレビ・冷蔵庫付き、室内木目調。ベッドはカーテンで仕切られている。

4月の入院予約の際、追加料金なしの4人部屋を希望したが、満室の場合は追加料金ありの部屋でもやむを得ないと了承していた。

参考までに1号館の3人部屋は7,000円。個室は15,000円。
また別に個室病棟があって全室トイレ、浴室、インターネット付きで、Aクラス150,000円、Bクラス50,000円、Cクラス30,000円。

夕食。478kcal、食塩1.9g

よく入院中の食事は旨くないと聞くので期待はしていなかったがそれほどでもない。

食塩を1日6g(心臓病食)にしており1食あたり食塩1.2g~2.0gと味付けがうすい。

左腕に点滴針を2本張り付けられ、テープで固定された。金属の針ではなくプラスチック製だが腕を少し曲げると肘に痛みがある。点滴をするのは翌日の手術前からというので前日から針を刺す理由を聞いたところ、手術前はバタバタするから(正確にはどう言われたかは忘れた)という。

家族への説明

家族同伴(妻)で手術担当の医師から手術内容の説明があった。心房細動、カテーテルアブレーション、6月4日に撮影したCT画像で焼灼する場所と方法などの説明を受けた。

カテーテルアブレーションの成績は、病状初期の発作性心房細動で、術後1年の洞調律(*)維持が60~70%、病状の進行した持続性心房細動では50%という。(*洞調律 : 洞結節で発生した電気的興奮が正しく心臓全体に伝わり、心臓が正常なリズムを示している状態)

自分の心臓のCT画像

後で、CT画像の左側画像が普段見慣れている心臓画像と違うと思ったので調べると、左心房を後ろから見ており4本の太い肺静脈(右上、右下、左下、左上)がみえ、各肺静脈と左心房のつなぎ目を内部からバルーンで焼灼する。

右側画像は肺静脈を内側から見たものでバルーンで焼灼する場所。肺静脈より太いバルーンを数十秒間押し当てて焼灼する。

それにしても自分の心臓の内部がこれほど鮮明に見れるとは今更ながら医学の進歩に感心する。この日説明されてはいないがこのCTデータが画像処理され3Dマッピングシステムとして手術などで使われるらしい。

合併症についての説明もあった。当院の実績では、2014~2016年に行われた250例のうち7件の合併症があった。また1998年~2015年の実績では心房細動以外の電気整理検査・カテーテル焼灼術を含めて過去17年間で2000例のうち死亡例は 0 。

少しデータが古いので当院のネット情報から、経皮的カテーテル心筋焼灼術の実績は2016年257件、2017年321件、2018年366件となっている。

病棟廊下

入院病室の様子

4人部屋なので家族や医師、看護師との会話が筒抜けになっており、大学病院ということで比較的重い症状の患者が入院してくるらしい。

初日、隣のベッドの患者は日中人工透析から帰ってきて、心臓も悪いらしく、心臓カテーテル検査を受けるようだ。夜間に長時間咳が続きつらいようだ。翌日検査から本人は帰らず付添人が急いで荷物を運んで行った。

手術前夜の興奮や、隣からの深夜の咳でほとんど眠れなかった。翌朝看護師から「よく眠れましたか」と尋ねられても「なかなか眠れなかった」とだけ答えた。同室の別の患者も同じ質問に「いや」と口を濁していた。明日は我が身と思ったとおり2日目の深夜は、後に述べるように手術後の自分が排尿できなくなった。

時間は前後するが、3日目に隣のベッドへ次に入ってきた患者は糖尿病らしくこちらも心臓カテーテルで検査するらしい。夜中に具合が悪くなって何度か看護師が来た。低血圧のようだ。30歳前後の女性看護師が、母親が我が子を案じるような心のこもった対応をしていた。

廊下側のベッドの患者と立ち話をした。77才という「ピンピンコロリといきたいね」とのこと。同感だがなかなか思うようにはならない。

手術

カテーテルアブレーション治療 (写真:君津中央病院サイトより)

手術予定13時から。

10時から点滴が始まった。500mlの食塩水2袋分を血管から注入。そのうち何となくボーッとなってきたような気がした。

14時頃手術室から連絡があり、手術着1枚になりストレッチャーに寝かされた。まな板の鯉の心境。女性の看護師が手術室まで運んだ。

手術室に入ると、大きな医療器具やモニターがあり、正確な人数は分からなかったが7人から10人程の人がおり手術台に移された。

2、3の質問があり「麻酔を注入します」との声が聞こえて、記憶が飛んだ。後でよく効くもんだと思った。

尿道に痛みがあって気が付いた。

医師から何か話されたが、記憶に残っていない。

立ち会った妻によると手術室に運ばれてから出てくるまで2時間経過していたとのこと。

後で治療費支払い時に受け取った診療明細書によると、冷凍アブレーションカテーテル、バルーン径28mmが使われたようだ。

手術後

病室に戻りベッドに移った。尿道に結構太いカテーテルが挿入されており、かなり痛い。夕食があり、水分を十分にとるようにとのことで、お茶や買い置きの水をたっぷり飲んだ。

20時ごろ看護師が来た時、挿入されている尿道カテーテル(正確な呼び名は分からない)が痛いのでみてもらったところ、出血していたのでカテーテルを抜き取ってもらった。抜き取るとき激痛が走った。

真夜中の1時ごろ尿意を催しトイレにいったところ排尿の際に激しい痛みがあり血液の塊が数滴出てきて排尿出来ない。

自分のベッドでカテーテルを挿入し尿を抜きとってもらった。カテーテルの挿入・抜き取りの際、切り傷を棒でかき回されたような激痛が走った。

翌朝も先端から出血が続きパジャマの前に血がにじみ出ていた。自力で排尿出来ず、カテーテルで尿を抜いてもらった。

カテーテルの激痛に堪えがたく、自分で尿道の先端をつまんで何とか痛みをこらえて少しずつ排尿できた。その後も出血は続き排尿時の激痛が続いた。

手術前にかなりの食塩水が点滴で入ったので尿意は数時間おきに催し、全て計量カップにとらなくてはならない。排尿するたびに看護師を呼んでほしい、と言われたが忙しくてなかなか来てくれない。一度連絡しなかったら注意された。

心臓の働きと尿量は関係するらしく、点滴で注入された水分が適切に排尿されているかを記録する必要があるためらしい。トイレには計量カップが備え付けられており自分で尿量を測定し時間とともに記録することにした。

退院の日、病院側が北里大学病院の泌尿器科外来を予約したとのことだが診察は7月9日とのこと。カテーテルアブレーション術後にはよくあるらしく、様子をみて悪化しているようであれば電話するようにといわれた。日に何度も排尿の際に激痛に堪えなくてはならず憂鬱であった。

服用薬
 手術担当の医師から手術後の説明があり、しばらくの間は血液を凝固しにくくする薬(プラザキサカプセル110mg)と胃酸分泌を抑制する薬(ネキシウムカプセル20mg)の服用を続けるが、今後はかかりつけの多摩丘陵病院の医師と相談し、コレステロールの薬だけになるでしょう、とのこと。すでに手術の当日からメインテート錠0.625mgは服用をやめる指示があったのでその後は服用していない。



累 計 今 日 昨 日