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囲碁ニュース(朝日新聞DIGITAL)

2016/01/24

囲碁、小中高大の授業に一手 教育現場「思考力育む」

子どもたちの考える力を育もうと、囲碁を授業に採り入れる小中学校が増えている。大学では、九州大が昨秋から半期の講座を始めた。囲碁人口の裾野を広げたい日本棋院も積極的に講師を派遣するなど、教育現場での普及に力を注ぐ。

■日本棋院も普及へ協力

 「今日は、終盤の戦い方を学んでもらいます」

 熊本県宇土市の県立宇土中学校。昨年10月、2年生の囲碁の授業があった。教壇に立つのは地元のアマチュア7段の蛇島知誠(ちせい)さん(72)。同県南部の囲碁愛好家グループ「一碁一会の会」の5人がサポートに入る。平松拓人(ひろと)さん(14)は「石の取り方もゲームの終わり方も難しい」、石村妃君智(ひなの)さん(14)は「先を計算しながら進めるのが面白い」。

 同中では2013年度から囲碁を導入した。総合学習の時間を使い、1年生から学ぶ。2年生は1年間で約10コマ。1年生は昨春、プロ棋士の石倉昇九段に指導を受けた。導入当時に校長だった越猪(おおい)浩樹・県教委高校教育課長(55)は「地域の力でじっくり子どもを育てようと考え、囲碁に至った」と話す。陣取りゲームである囲碁を通じ、論理的な思考力や大局観、相手の意図を読むことによるコミュニケーション力が育まれると期待しているという。

 福岡市立舞鶴小と鳥飼小は昨年7月、プロ棋士の武宮陽光五段を講師に囲碁教室を開いた。鳥飼小は3年生約140人が参加し、武宮五段が石の置き方などを説明。立光(たちこう)浩美校長(55)は「英語や国際理解の推進が叫ばれているからこそ、身近な文化を知るのも大事」と言う。武宮五段とともに指導にあたり、同市中央区で学童保育と囲碁教室を兼ねた「桜道場」を運営する森靖子さん(60)は「相手の立場に立って考える力も身につく」。市内のほかの複数の小学校でも、囲碁を学校で取り上げた。

 日本棋院も若い世代への囲碁の普及に力を入れる。学校囲碁推進室を14年に設置し、14年度は全国37の小中高校で、授業時間にプロ棋士らが指導した。担当者は「今後さらに多くなるだろう。小学校を中心に問い合わせは多い」。

 東京都中央区では区立小全16校のうち9校の総合学習で囲碁を扱う。囲碁が趣味という矢田美英区長が「集中力や思考力、判断力を養い、礼儀作法を学ぶのに役立つ」と提案したのが始まりという。

 大学にも広がる。九州大は昨年10月から、全学部生を対象に基幹教育(教養教育)で「囲碁で養う考える力」を開講した。受講者は定員いっぱいの50人。修了者には2単位が与えられる。九大は導入理由を「論理的思考力の向上を図り、考える力を養う」などと説明する。

 日本棋院によると、大学での囲碁の授業は05年度に始めた東大が最初で、昨年10月現在では早大、慶大など23大学にのぼるという。日本棋院の担当者は「答えを早く知りたがる学生が多く、自分で考えて自分で答えを導き出す力を身につけさせたいと、囲碁に着目する大学は多い」と話している。

 将棋界も学校での普及に力を入れる。日本将棋連盟は06年に学校教育課を設置。同課によると、東大や弘前大など8大学で単位が与えられる将棋の講義がある。東京とその近郊では、都立高校などが総合学習の時間に採り入れるなどしている。(渡辺純子、山下知子)

■テストで大幅得点増も

 東北大加齢医学研究所の川島隆太教授(脳科学)は2006~07年、小学生(低学年中心)130人を対象に囲碁に関する調査をした。週1回1時間の囲碁教室に3カ月通うと、子どもたちに思考力や短期記憶力などのテストで大幅な得点増がみられた、という。

 また、11年に都内の小学2~4年生計36人に週1回1時間の囲碁講座を計6回受けてもらったところ、感情や行動をコントロールする自己抑制力が伸びている可能性が示された、という。

 川島教授は「思考力や自己抑制力は、脳の同じ領域の機能。囲碁はそこを鍛えている」と分析。「自己抑制力は社会生活を送る上で大切。子どもの遊びの中に囲碁を採り入れることは大歓迎だ」と話している。

(2016/01/10・朝日新聞DIGITAL)

小さな七路盤を使い、囲碁を楽しむ子どもたち=昨年7月、福岡市城南区の市立鳥飼小学校

囲碁を学ぶ生徒たち=昨年10月、熊本県宇土市の県立宇土中学校

講師から助言を受けながら、囲碁を学ぶ生徒たち=昨年10月、熊本県宇土市の県立宇土中学校

小さな六路盤を使い、実際に碁を打つ学生=昨年10月、福岡市西区の九州大伊都キャンパス

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