戻る

美術館訪問記 - 640 グエル公園、Barcelona

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:グエル公園入口、右側が公園管理事務所、左側が守衛事務所

添付2:大階段

添付3:ドラゴンまたはイグアナ

添付4:百の柱の間

添付5:天井飾り

添付6:大広場

添付7:ベンチの装飾

添付8:遊歩道

添付9:柱のある散歩道

添付10:洗濯女の愛称のある女人像柱

前回のガウディ博物館はエウセビオ・グエル伯爵が構想して、資金を出しガウディが設計、建築した「グエル公園」内にあります。

前回触れたように、この公園は、グエルが英国モデル「ガーデンシティ」に触発された新たな住宅地を建設するための核とすることでした。この理由から、パーク・グエルという英語の名前がつけられています。

二人は1900年から工事に取り掛かり、1914年までかけて公園と、60区画の住宅地用の分譲地を造成しましたが、グエルの巨額の投資にも拘わらず建設されたのは、グエル邸と販売促進用のモデルハウス、弁護士の家の3軒だけで、モデルハウスは1906年にガウディ自身が購入したのでした。

グエルとガウディという傑出した二人の、自然と芸術に囲まれた優雅な暮らしという発想は、当時のスペインの状況から、区画購買想定者のスペイン・ブルジョワ層との隔たりが大き過ぎたと言えるかもしれません。

1918年のグエルの死により、1922年、遺族は公園全体をバルセロナ市に売却。現在は市の管理する公園となっているのですが、市は保存維持するだけで、何の追加も行っておらず、おかげでガウディの、時代を超越した造形を100年後の現在も楽しむことができるのです。

公園全体の土地は広大なだけでなく、かなりの斜面を含んでいます。公園の最下部にある正門に、ガウディはおとぎの国の家のような魅力的な管理事務所と門衛所、大階段を設置しています。

ギリシャ神話を元に、シンボリズム溢れるこの45段の大階段は、非日常の世界へと誘う重要な舞台装置としての役割が与えられていました。

大階段の中程にあるのが、この公園を象徴するシンボルともなっているドラゴンまたはイグアナ。

黄色と青が基調になったタイル張りで、その口から溢れ出る水は蛇の円形浮き彫りを通り、そのすぐ下の偽造鍾乳石へ絶え間なく流れ落ちています。

階段を上がると多柱式の広々とした空間が待っています。

ここが「百の柱の間」と呼ばれる場所で、グエルから、この建築にギリシャ神話を入れるように依頼されたガウディは、屋根を支える柱にドリース式の列柱を取り入れています。円柱の下には貯水槽があり、上の大広場の雨水を貯める仕組みで、各所への水の供給源の一つとなっています。

次に天井飾りに注目すると、大きい円盤が4つありますが、これは「太陽」を表し、その周りにそれぞれ小さな4つの円盤が「月」を表しています。

ガウディは天体の動きこそが市場で売られる生鮮食品の成長の源、その生命のサイクルをここで表現しようとしました。

因みに実際にこれらの制作にあたったのは、建築家のジュゼップ・マリア・ジュジョール。ガウディの協力者として、建築に留まらず家具デザインや絵画などの分野で才能を発揮した総合芸術家です。

右側の階段を上がると、中央大広場に出ます。古代ギリシャ劇場のような半円形になっており、ギリシャの都市国家のように住民が集い合うオープンスペースとして使用されるものでした。

ここからはバルセロナの町が一望できる絶景ポイントで、最初の門衛所などの写真はここから撮ったものです。

大広場を取り巻く、観光客に人気の蛇行する波打ったベンチは全長110メートル。

このベンチの装飾に使われたのは、廃棄される筈の出来損ないの陶器や割れ物。ガウディは地方の窯元を巡り、それらをタダ同然で大量に集めたのです。

実際にこれらのタイル装飾を職人達を指示して行ったのはジュジョールですが、それまで世界に類のない壮大で華麗な芸術作品に仕上がっています。

公園には全部で4本の遊歩道があり、各々が交わることなく、ガウディの意図通り、長い散歩道を楽しめるようになっています。

斜面を巧みに使ったこれらの遊歩道は変化に富み、途中にある様々な造形物を愛でながら、歩みを進められる工夫が随所にあります。

何本もの柱が続き、まるで打ち寄せる波のような感のする場所もありました。柱の傾斜は山の勾配に沿って、その重圧を避けるようになっているのです。

ここに来て、アントニ・ガウディがスペインの生んだ最高の天才ピカソに通じる融通無碍と自由の精神を持った芸術の天才であることを確信させられました。