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美術館訪問記 - 635 ブリストル市立博物館・美術館、Bristol

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ブリストル市立博物館・美術館正面

添付2:ブリストル市立博物館・美術館入り口ホール

添付3:ブリストル市立博物館・美術館第2ホール

添付4:ジョヴァンニ・ベッリーニ作
「地獄の辺土へのキリスト降下」

添付5:ブーダン作
「牡蠣のある静物画」

添付6:ドラクロア作
「赤いターバンをした女性の頭部」

添付7:レイトン作
「漁師とセイレーン」

添付8:ヤン・グリフィエ作
「ノアの箱船」

添付9:アルマ=タデマ作
「無意識のライヴァル」

添付10:バーン=ジョーンズ作
「茨姫の物語」

次はイギリス西部の港湾都市、ブリストル。ロンドンの西169㎞の場所にあり、ブリストル海峡の対岸にあるウェールズの首都カーディフの東71㎞の位置です。人口46万人余りでイギリスでも10番目の中都市です。

この町の中心部の目抜き通りに面してあるのが「ブリストル市立博物館・美術館」。

創立は1823年と古く、別の場所にあったのですが、1899年現在地が売りに出され、ブリストルで煙草貿易で財を成したウィリアム・ウィリス男爵が土地の購入と新博物館・美術館の建設に十分な資金を市に提供。

1905年、新館が開館しています。新館建設時に在位していたエドワード7世時代のエドワーディアン・バロック様式の重厚な造りで、奥行きは前面の2.5倍あり、かなり大きな博物館・美術館。

入ると3階まで吹き抜けの大ホールがあり、天井から作り物のパイロットが乗った初期の飛行機が釣り下がっています。

ここは同じ大ホールが奥にもう一つある2重構造になっており、そちらには鯨の模型がぶら下がっていました。

第181回で触れたグラスゴーのケルヴィングローヴ美術館と同じ構造で、設計者は異なるのですが、どちらかがもう一方を模倣したに違いありません。

ここも博物館・美術館の名のとおり、古代ローマやエジプトからの考古学的発掘品、自然史関連、地方の歴史関係、中国の各時代を網羅した陶磁器などが揃っています。

絵画・彫刻の美術部門もオールド・マスターから近代絵画まで豪華な布陣。充実したコレクションの中から幾つか採り上げてみましょう。

先ずはヴェネツィア派の巨匠、ジョヴァンニ・ベッリーニの「地獄の辺土へのキリスト降下」。油彩画としては観たことのない図柄で珍しい。

珍しいと言えば、空の王者と呼ばれ、風景画を専らにするブーダンの静物画「牡蠣のある静物画」も滅多に目にすることはありません。

ドラクロアの「赤いターバンをした女性の頭部」も、肖像画としてはユニークな視点の意欲作。

レイトンの「漁師とセイレーン」はモロー風の構図で、印象的でした。

セイレーンは、ホメロスの「オデュッセイア」に登場する、美しい歌声で船乗りを惑わして遭難させると言われる海の怪物で、美女の顔と鳥の体を持つとされますが、中世以降は何故か人魚として描かれるようになり、現代まで続いています。

ヤン・グリフィエの4m四方の大作「ノアの箱船」1710年も珍しい。

ヤン・グリフィエは1652年、アムステルダム生まれのオランダの画家ですが、その頃のアランダ人画家らしいライン川地帯の風景画が専門でした。

イギリスに渡っていた知人のオランダ人画家の招きでロンドンへ行き、人生の大半をその地で過ごし、1718年ロンドンで死去しています。

最初に珍しいと言ったのは、風景画専門の彼が、風景の比率の少ない動物画の大作を描いている事と、当時のイギリス上流階級の好みでは、動物が描かれるとしても狩猟図や狩猟の獲物としての絵で、このような大作に動物が乱舞しているというのはまずありません。

しかも象や熊、一角獣などのイギリスでは見られない動物は遠方に小さく描かれ、近景には誰でも知っている身近な動物が描かれています。これも一般の興味とは逆でしょう。

同じくオランダ人ながらイギリスに帰化して古代ローマの風俗を専ら描いたアルマ=タデマの「無意識のライヴァル」も印象的。

前にも紹介したことのあるバーン=ジョーンズの傑作「茨姫の物語」の中の一作がここにもありました。