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美術館訪問記 - 626 ビーヴァーブルック美術館、Fredericton

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:ビーヴァーブルック美術館正面

添付2:ビーヴァーブルック美術館内部

添付3:シッカート作
「初代ビーヴァーブルック男爵ウィリアム・エイトケン」
 ロンドン、国立肖像画美術館蔵

添付7:ターナー作
「インドレンスの噴水」

添付8:ティソ作
「過行く嵐」

添付9:マリー・スパルタリ・スティルマン作
「白バラを持つ自画像」

添付10:フレデリクトンの街の一角

前回詳述したウォルター・シッカートの最大のコレクターかつスポンサーは親友で、富豪のウィリアム・エイトケン(1879–1964)でした。

エイトケンは出身地のカナダで実業家として成功し財を築いた後、イギリスで「デイリー・エクスプレス」や「イヴニング・スタンダード」を買収し、新聞事業者として知られ、第二次世界大戦中には第1次チャーチル内閣で軍事関連の閣僚職を歴任した人物です。

シッカート繋がりでチャーチルとは馬が合ったのでしょう。

エイトケンは1917年にイギリス連合王国貴族爵位、初代ビーヴァーブルック男爵に叙せられています。

エイトケンはシッカートの例でも判るように美術愛好家で、ターナーやダリ等を含むコレクションを築き上げていましたが、それらを寄贈し、自ら建設資金も出して完成したのが「ビーヴァーブルック美術館」。

この美術館があるのは、フレデリクトン。カナダのニューブランズウィック州の州都で人口6万人足らず。アメリカ合衆国の最東端メイン州に隣接する州で、国境から95㎞程東の都市です。

この美術館に行くだけのためにモントリオールから822㎞、車で走行しました。途中で一泊しましたが、一美術館への走行距離としてはこれまでの最長記録。

普通はこれだけの距離の間には、訪れるに値する美術館があるものなのですが、この場合は全く見つからなかった。ケベックは道筋も異なりますし、この時は既に4回訪れていたのでスキップ。

美術館は豊かな水量の流れる幅600m近いセント・ジョン川を背に佇む2階建て。両端には天井まで吹き抜けの広い部屋があり、大きな作品が展示されていました。

そこに展示されていた1点がダリ生涯のマスター・ワーク18作品の内の1作、「サンティアゴ・エル・グランデ」。408 x 305cmの大作です。

ちなみにここで言うダリのマスター・ワークとは一辺が150cm以上の作品で、制作に1年以上をかけた物を言います。

ダリは最も有名な彼の「記憶の固執」で時計とチーズを重ね合わせて見せたように、あるイメージを別イメージに重ね合わせて表現するダブルイメージが得意です。

この作品はゴシック寺院にはよく見られる丸天井によって壮大な空間を描き、画面の左側に白い天使が沢山描かれています。そしてよく見ると馬の首の部分に同じ天使の形が光り輝くように浮かんでみえます。

同じ部屋の別の壁には、いずれもダリが描いた「レディー・ダン」と「サー・ジェームズ・ダン」夫妻の肖像画もありました。

ジェームズ・ダンはエイトケンの親友で、富豪のカナダ人実業家であり、ナイトに叙された、美術収集家でもありました。

ジェームズは1957年に亡くなりますが、エイトケンは1961年に「勇気:サー・ジェームズ・ダン物語」という伝記を出版しています。また初婚の妻と死別していたエイトケンはダン未亡人と1963年再婚しています。

他にはターナーやゲインズバラ、コンスタブル、ラムゼイ、ティソ、サージェント、ルシアン・フロイドといったイギリスで活躍した一流画家や、カナディアン・アートの巨匠、トム・トムソンの絵画など60人を超す認識済みの画家たちの作品が展示されていました。

特に滅多に目にすることのない、ラファエル前派では最高の女流画家、マリー・スパルタリ・スティルマンの自画像があったのは嬉しかった。

長距離運転が十分報われる展示内容で満足しました。

途中、所用で外出しましたが、この美術館は同一日なら再入場可能。ただし入場料を払った際に何も渡されなかったので、出る時に、どうやって再入場ができるのか聞くと、受付の若い女性が笑って「私がいるから忘れませんわ」と言いいました。つまり、それ程、ここまでやって来る入場者は少ないという事です。



(添付4:ダリ作「サンティアゴ・エル・グランデ」、添付5:ダリ作「レディー・ダン」および 添付6:ダリ作「サー・ジェームズ・ダン」は著作権上の理由により割愛しました。
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