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美術館訪問記- 617 諸橋近代美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:諸橋近代美術館遠景

添付2:諸橋近代美術館と池

添付3:諸橋近代美術館内

添付8:セザンヌ作
「林間の空地」

添付9:ルノワール作
「モーリス・ドニ夫人」

添付10:ゴッホ作
「座る農婦」

青森、秋田、岩手、山形、宮城と来て、最後の2県に接するのが東北地方最南端の福島県。よく知られた猪苗代湖の北、磐梯山の麓に広がる裏磐梯高原の中にある北塩原村に「諸橋近代美術館」があります。

美術館の手前に綺麗な小川と、美術館と磐梯山の素晴らしい眺めを写す池があり、美術館の建物は、創設者の希望で「中世の馬小屋」というイメージのもと厩舎を連想させる個性的な外観をした日本ではここだけという形容のものでした。

この美術館は、大型スポーツ店を中心に全国に100店舗以上を展開するゼビオホールディングス創業者、諸橋廷蔵(1932-2003)が1999年にコレクションを財団に寄贈する形でスタートしています。

諸橋は絵画鑑賞が趣味でしたが、偶然にも1991年、ダリの彫刻37点をパリ・ストラットン財団から一括購入できたことで、ダリ美術館開館を構想。

以後僅か10年足らずでダリの絵画、彫刻、版画作品など346点、セザンヌ、ルノワール、マティス、ピカソなど印象派以降に活躍第した20世紀の巨匠たちの作品70点近くを蒐集するに至っているのは驚異です。

ダリのコレクションにおいては、サルバドール・ダリ美術館(第275回参照)、ダリ美術館(第82回)、ソフィア王妃芸術センター(第357回)に次ぐ規模であり、欧米以外では随一の規模となっています。特に彫刻39点所有は群を抜いています。

館内は意外と広くなく、1階のみで、ダリの彫刻33点を展示してあるブチ抜きの細長い1部屋とその横に小部屋が3部屋あるだけの小規模な美術館。

なお、ここは館内どこも撮影禁止で写真は添付1,2以外は全て美術館のホームページから借用しました。

先ず彫刻から観ていくとダリの「引き出しのあるミロのヴィーナス」は世界で幾つも観てきましたが、それも道理、これは白く塗られたブロンズ像で、ルーヴルにある「ミロのヴィーナス」を基に石膏像を作り、それに6つの引き出しを付けて、ブロンズ像を幾つも作成したのです。

引き出しは女性の隠された内面を意味しており、つまみに付いている白貂の毛が美しい。サルバドール・ダリ美術館にあるものは、6つの引き出し全部にこの毛が付いていましたが、ここにあるものは額と足には付いていません。この美術館に入手されるまでに脱落したのか、意図的なのか?

ダリの「回顧的女性胸像」。これも着色ブロンズ像で沢山あり、パンは本物。初出の展示会場にピカソが連れて来た犬がパンに飛び掛かり食べてしまったという逸話があります。

ミレーの「晩鐘」の祈りのシーンの両側に置いたペンとインク壺を載せたパンは、フロイトの精神分析に傾倒し、偏執狂的批判的方法と称する技法を生みだしたダリにとっては強い性的イメージがあり、顔面を這う蟻は死を、首輪のゾートロープ (回転のぞき絵) が回顧を意味しています。

ダリ生涯のマスター・ワーク18作品の内の一点「テトゥアンの大会戦」。304 x 396cmの大作です。ちなみにダリの言うマスター・ワークとは一辺が1.5m以上の作品で、制作に1年以上をかけた物を言います。

10代の頃に見た19世紀の画家マリアノ・フォルトゥーニの同名作品に触発され、長い構想の末58歳のときに制作したとのこと。騎馬兵の中央には、ダリと共に妻ガラの姿が描かれ、これまで如何に二人で人生を戦って来たのかを象徴し、二人の間にある58の数字は完成時のダリの年齢。

「ビキニと3つのスフィンクス」は原爆の惨状に大きな衝撃を受けたダリが彼得意のダブルイメージとだまし絵風の表現で描いた作品。高い知性を持つ伝説の怪物スフィンクスは人間の後頭部になぞらえられ、その毛髪は原爆投下時のキノコ雲を象っています。

セザンヌの「林間の空地」は暗い色調や厚塗りの筆触での描写など、普段私たちがイメージするセザンヌとは異なる若かりし日の初期作品ですが、既に単なる風景の模写ではなく、その存在感、本質に迫ろうとする彼の意気込みが感じられる作品になっています。

農民画家ミレーの影響で画家になる決心をしたゴッホは、1886年パリに出る前はオランダで農民をモデルにした作品を多く残しています。

ここにある「座る農婦」は厳しい表情でこちらをじっと見つめる農婦の姿。固く結んだ手やその面持ちからは、絵のモデルになっていることへの緊張感が感じられます。あるいはそれは画家への道を模索するゴッホ自身の緊張感なのか。

なお、ここは12月から4月中旬まで冬季休館しています。



(添付4:ダリ作「引き出しのあるミロのヴィーナス」、添付5:ダリ作「回顧的女性胸像」、添付6:ダリ作「テトゥアンの大会戦」 および 添付7:ダリ作「ビキニと3つのスフィンクス」は著作権上の理由により割愛しました。
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