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美術館訪問記- 615 カメイ美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:カメイ美術館入口

添付2:カメイ美術館絵画展示室

添付3:佐伯祐三作
「自画像」
東京藝術大学大学美術館蔵

添付4:佐伯祐三作
「パリ風景」

添付5:佐伯祐三作
「街灯のある風景」

添付6:萬鉄五郎作
「壺のある静物」

添付8:カメイ美術館6階展示室

添付9:蝶コレクションの一部

添付10:「宇宙賛歌」

先週末、無事帰国しました。

今回はアメリカ合衆国中部の美術館を巡る38日間の旅でしたが、この一帯は都市間の距離が長く、レンタカーでの全走行距離は10,194km。

飛行機搭乗日やシカゴのような大都会、週1回の休養日は殆ど車は使いませんから実質走行日は26日間。つまり1日平均392㎞走行していた勘定になります。

東京都から岐阜県の大垣市までが390kmですから、連日それぐらいは運転していたわけで、時差ぼけも加わり、始めはホテルに着くと疲労困憊でしたが、1週間もすると身体が順応して、それ程のことはなくなり、私も喜寿を過ぎましたが、まだまだ旅を続ける体力は健在のようです。

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仙台駅の南口から500m程南へ行くと「カメイ美術館」があります。カメイ五橋ビル7階と6階を占めていて7階は絵画、6階は蝶とこけしを展示中。

この美術館は、仙台市に本社を置く総合商社カメイ株式会社の創業90周年を記念して設立され、3代目社長亀井文蔵収集の世界の蝶、4代目社長亀井昭伍収集の伝統こけし、そして歴代亀井家収集の絵画・彫刻の数々を展示しています。

7階でエレベーターを降りると広い一室の壁一面に絵画が展示されていました。

ヴラマンクやデュフィ、ルオー、浅井忠、梅原龍三郎、荻須高徳、金山平三、佐伯祐三、中川一政、林武、藤田嗣治、三岸節子、安井曾太郎、萬鉄五郎など個人コレクションとしては錚々たる顔ぶれ。

ただ残念ながら展示絵画は撮影禁止で、美術館のホームページやインターネット上にもごく限られた作品しか発見できません。添付絵画写真は全て美術館ホームページから借用しました。

佐伯祐三作品は2点見つかりました。彼の名前は何度か出しましたがまだ解説していませんでした。

佐伯祐三は1898年、大阪市の寺の次男として生まれ、大阪府立北野中学校在学中に赤松麟作の画塾で学んだ後、東京に出て1918年、東京美術学校西洋画科に入学。藤島武夫の指導を受けて1923年、卒業します。

彼はこの頃、自己の内面を見つめるように幾つかの自画像を残していますが、東京美術学校の決まりで卒業制作として提出した自画像を添付しましょう。鋭い眼光が印象的なこの自画像は、藤島の画風を受け継いでか明るく穏やかです。

1924年1月、念願のパリ行きを果たした佐伯はセザンヌとヴラマンクに傾倒。初夏に巨匠となっていたヴラマンクを訪ね、持参の「裸婦」を見せると、ヴラマンクは火がついたように怒り出したのでした。

「このアカデミズムめ!」「絵画から生命感を感じない!」「他人の真似をするなら絵など描くな!」と罵詈雑言。

ヴラマンクは生来の野生児で、全く独学で絵画を学んでおり、権威や伝統を伴うアカデミズムが大嫌いで、色彩の革命と言われたフォーヴィスム(野獣派)の第一人者でもありました。

ショックを受けた佐伯は作風を劇的に変化させます。ヴラマンク風の荒々しいタッチで郊外風景を描いた作品群を経て、ユトリロの影響を受け、建物を正面から見たパリ風景を確立します。

カメイ美術館には1925年頃に描かれた「パリ風景」と「街灯のある風景」が所蔵されています。

1926年1月にいったん帰国しますが1927年8月再度渡仏。

20歳の時に結核で弟を亡くし,自らも結核を病んでいた佐伯は死が常に身近にあり生に対する焦燥感があったのでしょうか、毎月30点以上の作品を描くようになり、作風もヴラマンクやユトリロから脱し佐伯色の強い作品が目立って来ます。

しかし1928年3月には結核が悪化し、精神錯乱に陥るようになり、ついにはブローニュの森で行き倒れるという失踪事件を起こし、精神病院に収容されてしまい、そのまま1928年8月死去。

30年という短い命で、画家人生も5年余りの一瞬の光芒でした。6歳の娘、彌智子も2週間後、同じ結核で父の後を追っています。

6階の展示室には、16万頭を超える亀井文蔵の蝶コレクションの内、約4000種14000頭を展示、標本が世界で3頭しか存在しない、メスのアロッティトリバネアゲハも日本で唯一収蔵・展示されているそです。

蝶の標本の他にも甲虫類の標本1300頭や、100種類以上の蝶の翅を使用して作られた「宇宙賛歌」も展示されていました。



(添付7:安井曾太郎作「京都郊外(秋)」は著作権上の理由により割愛しました。
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