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美術館訪問記- 600 カルヴェ美術館、Avignon

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:カルヴェ美術館入り口

添付2:カルヴェ美術館前庭 写真:Creative Commons

添付3:ニコラ・ミニャール作
「自画像」

添付4:ニコラ・ミニャール作
「聖サイモン・ストックにスカプラリオを授ける聖母マリア」

添付5:ジャック=ルイ・ダヴィッド作
「バラの死」

添付6:ヴィジェ=ルブラン作
「ジュゼッピーナ・グラッシーニの肖像」

添付7:スーティン作
「エイ」

添付9:モーリス・ドニ作
「白衣での授乳」

添付10:カルヴェ美術館内「彫刻の回廊」

前回のアングラドン美術館を北西に300mも行くと、「カルヴェ美術館」があります。

アヴィニョンでは、18世紀になると、貴族たちが庭園と中庭を持つ壮麗な邸宅を建設しました。カルヴェ美術館が入居している建物も1749年にジャック=イニャス・ド・ヴィルヌーヴ侯爵が完成させたものです。

それをアヴィニョン市が1833年に購入し、裕福な医師で、大コレクターでもあったエスプリ・カルヴェが自分のコレクションを市に遺贈したものを展示して1835年、美術館として公開しました。美術館はその後も数々の寄贈を受けてコレクションを充実させていったのです。

特に大商人で美術愛好家だったマルセル・プーシュ(1918-2001)の寄贈品が近現代美術をカバーしています。

高い塀で囲まれた美術館の入り口の上には「MVSEVM」と浮彫されています。MUSEUMではないのかと思われた方もおられるかもしれません。

現在英語のアルファベットの文字数は26文字ですが、古代ローマ時代に使われたラテン語では21文字しかありませんでした。例えばVはUとVの両方の発音を兼ねていたのです。このことから歴史と伝統のある存在であることを強調したり、ほのめかしたりしたい時に、欧米ではUの代わりにVを使う事が間々あります。

女性のお好きなブランド、ブルガリもBVLGARIと綴っていますね。

門をくぐって中に入ると、広い前庭と格調ある建物で期待を抱かせます。

館内には、古代エジプトの発掘品からギリシャ、エトルリア、ローマの美術品、16-20世紀の絵画、15-19世紀の彫刻、多数のデッサンなどの幅広いコレクションが展示されていました。

カルヴェ美術館にあった15世紀のアヴィニョン派の絵画や、イタリア絵画のコレクションはプティ・パレ美術館に移されていますが。

目に付いた作品を幾つか採り上げてみましょう。

先ず「アヴィニョンのミニャール」と呼ばれたニコラ・ミニャール。彼は1606年、トロアの芸術家の家に生れ、弟のピエールも著名な画家でした。ニコラの息子もピエールという名で画家になっているので注意が必要です。

地元の画家に学んだ後、パリに出て、フランスの代表的バロック画家、シモン・ヴーエのアトリエで修業後、1635年にローマへ向い、ラファエロやアンニーバレ・カラッチなどを模写しながら優美で甘美な画風を身に付けます。

旅の途中で出会ったアヴィニョンの娘に恋をし、1637年からは結婚して20年以上をアヴィニョンで暮らします。

アヴィニョンを訪れた枢機卿ジュール・マザランに気に入られ、1660年、パリに召喚され、王立絵画彫刻アカデミーの会員となり、その後アカデミーの教授から学部長となって活躍後、1668年、パリで没しています。国王や王妃、宮廷の貴族たちの肖像画を数多く残しました。

この美術館には彼の「自画像」や「聖サイモン・ストックにスカプラリオを授ける聖母マリア」など、計8点が展示されていました。

サイモン・ストックは13世紀の英国の聖人で、聖母マリアからカルメル修道会の修道服となる茶色のスカプラリオ(修道士の着る肩かけ)を授かったとされます。

次いで新古典主義の巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドの「バラの死」。

ジョゼフ・バラは、フランス革命期に存在した少年鼓手で、反革命軍との戦いで捕虜となり、王党派の兵士たちに「国王万歳!」と叫ぶように強要されましたが、それに逆らい「共和制万歳!」と叫んで処刑されました。その時僅かに13歳。バラの死は革命軍ににとって絶好の宣伝材料となったのでした。

ダヴィッドと同時期に活躍したヴィジェ=ルブラン(第209回参照)の「ジュゼッピーナ・グラッシーニの肖像」もありました。

グラッシーニはイタリアの歌手で、歌の才能に加え、その美貌で人々を魅了し、様々な画家が彼女の姿を描いています。ナポレオンと初代ウェリントン公爵の愛人だったこともありました。

近代絵画ではスーティンの作品が5点も展示されていました。

他にはコローやマネ、シスレー、ボナール、ヴュイヤール、ヴラマンク、デュフィ、ユトリロ、モーリス・ドニ、ビュッフェなど。

日差しが燦燦と降り注ぐ「彫刻の回廊」もありました。



(添付8:ヴラマンク作「 ジンを飲む人」は著作権上の理由により割愛しました。
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