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美術館訪問記- 595 オテル・デュー、Beaune

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:オテル・デュー外観

添付2:オテル・デュー中庭

添付3:大病棟

添付4:病室の一画

添付5:ロヒール・ファン・デル・ウェイデン作
「最後の審判」

添付6:「最後の審判」中央部分
写真:Creative Commons

添付7:「最後の審判」左翼部分
写真:Creative Commons

添付8:「最後の審判」右翼部分
写真:Creative Commons

添付9:「最後の審判」閉じられた扉側部分
写真:Creative Commons

添付10:展示されていたタピストリーの一つ

前回触れたボーヌはオータンの東40㎞程の所にあるブルゴーニュ・ワインの産地として有名な古都です。

この街の中心部にあるワイン・マーケットに向かい合って「オテル・デュー」があります。ブルゴーニュ公の宰相ニコラ・ロランにより1443年に建設開始された貧民救済のための慈善病院でした。

フランス語で「神の館」の名を持つ、この病院は1452年から現代に至るまで、病人や貧民、老人、孤児、障害者などを無料で受け入れて来ました。

施療院維持のためブドウ畑や農園、森林を所有させ、ブドウ畑で作られたワインは、毎年11月に競売にかけられ、売り上げは維持費に充てられて来たのです。今ではこの11月のワイン・オークションはヨーロッパの名物となっています。

1971年から病院の機能は近代的な別の施設に移され、現在では、博物館となって、とても貧民のためとは見えない立派な寝台や豪華な装飾と共に、往時を再現した病人の世話をする尼僧の人形などが展示されています。

建物の外観は素朴なゴシック様式ですが、通路を経て中庭へ出ると、幾何学的紋様の色鮮やかなモザイク模様の瓦屋根に息を呑みます。

釉薬を用いて色付けされた瓦屋根は、芸術品とでもいうべき素晴らしい眺め。ブルゴーニュにはこういったモザイク屋根の建物が幾つかありますが、オテル・デューはそれを代表する建築物です。

中庭から建物の中に入ると、広い回廊のような空間が開けています。これが大病棟。突き当りに祭壇があり、大きな礼拝堂の中にベッドが並んでいるような感じです。これは動けない入院患者が居ながらにミサに参加できる工夫で、この施療院の在り方がそのまま形に表れたような設計です。

左右には白いシーツに紅いカバーの掛かったベッドが整然と並んでいます。中には看護婦である修道女の人形模型と一緒に看護の道具などが展示されているベッドもあり、当時の様子がしのばれます。

見学ルートには、重篤な患者のための病室や、薬局、調理場などが含まれますが、私の興味はひとえに空調設備の整った特別室に展示されている「最後の審判」です。

ニコラ・ロランがロヒール・ファン・デル・ウェイデンに描かせた9翼の祭壇画は修復されているのでしょう、眩しいばかりに輝いており、フランドル絵画の最高傑作の一つに挙げられるでしょう。

この絵は「最後の審判」の伝統的な配置に従い、中央にキリスト、その下に魂の重さを計る天秤を持った大天使ミカエル、大天使ミカエルの足元に復活する死者達が描かれています。

キリストの右手側、鑑賞者から見ると左側は天国に昇る人々が描かれ、キリストの左手側、鑑賞者から見ると右側は地獄に落ちる人々が描かれます。キリストの周りには、聖母マリア、聖人、天使が配されています。

当時この絵は病人のために礼拝堂に掛けてあり、日曜日や祭日に広げられました。閉じられた扉側の左右に描かれたニコラ・ロランとギゴーヌ・ド・サラン夫妻の祈りの姿も印象的です。

扉絵の中央上部には「受胎告知」、下部にはオテル・デューの守護聖人、聖セバスティアンと聖アントニウスが描かれています。

見学路内にはパリのクリュニー美術館にある16世紀の有名な「一角獣と貴婦人」と同様なテクニックと色使いが観られる古いタピストリーや彫刻、絵画も展示されていました。

ニコラ・ロランはオテル・デューという芸術品を造り上げることにより、メセナの精神を永遠に示し続けられる果報者になったと言えるでしょう。