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美術館訪問記- 590 アンジェ城、Angers

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:アンジェ城外観

添付2:アンジェ城入り口

添付3:アンジェ城内の庭と館と礼拝堂

添付4:城壁の中にある庭園

添付5:外堀の庭

添付6:城壁の一画のブドウ園

添付7:グランド・ギャラリー外観

添付8:グランド・ギャラリー内部

添付9:タペストリーの一枚

添付10:城壁上からの眺め

アンジェ美術館から西に300m足らずの場所に古城「アンジェ城」があります。

アンジェはメーヌ川の河岸都市としてローマ時代以前から発達して来ました。その川沿いに建つこの城は9世紀からアンジュー伯の居城となっていたのですが、フランス国王ルイ9世が1230年から1242年にかけて再建したものです。

これによりアンジェ城は当時のフランス屈指の規模を誇る城塞となり、外周約600メートル、それを取り囲む城壁には、17もの巨大な円塔が配され、高さ40mから60mの塔が約30メートル間隔で並ぶという堂々たる構えになったのです。

頁岩とトゥファという二種類の素材からできている二色の塔です。

その後は刑務所や弾薬庫として用いられた時もありましたが、現在は一般公開されており、跳ね橋を渡って中に入ると、14世紀から15世紀にかけてアンジュー公の住まいだった美しい館があります。

城壁の中にある庭園はロワールの城らしい優美な雰囲気。フランス式庭園の特徴は、庭木や花壇が幾何学模様に美しく配置されていることで、自然と人の手が作り出した造形美は見事としか言いようがありません。

アンジェ城は、周囲の壕も水堀ではなく、よく手入れされた庭になっていて、訪れる人たちの憩いの場となっていました。

城壁の一画はブドウ園になっており、ここでワインも醸造していたのでしょう。

アンジェ城一番の見所として有名なのが「ヨハネの黙示録」を描いたタペストリー。

グランド・ギャラリーにある世界で唯一の黙示録のタペストリーは、フランスに現存する中では最古と言われ、1375年にアンジェ公ルイ1世の注文で二コラ・バタイユが作ったもので、高さ5m、長さ106m。

6つの部分から構成され、各部分2段になって各段7つずつの絵があります。従って全部で84場面でできているのですが、残っているのは67枚。

保護のため薄暗闇の中に浮かぶ青や赤で彩色されたタペストリーは壮観。

ヨハネの黙示録は、単に黙示録とも言われ、新約聖書の最後に配された聖典であり、新約聖書の中で唯一預言書的性格を持つ書です。

キリスト教における黙示とは、神が人に表し示すことです。一般的な意味での黙示は、人間の力ではわからなかったことを明らかにすること、あるいは、秘密が明らかにされること、という意味です。

ヨハネの黙示録は、世界の終末の様子と、再臨したキリストによる最後の審判、そしてそのあとに続く新しい世界の到来が記されています。その幻想的で衝撃的な内容は、キリスト教美術の主題として繰り返し表現されてきました。

その内容は、七角七眼の子羊が巻物の七つの封印を次々に解くと、地上で戦争や飢餓などが起こります。第七の封印が解かれると、七人の天使に七つのラッパが与えられます。天使がラッパを吹くと、さらに激しい災いが起こり、地上の悪が滅びるとともに世界が終末を迎えます。

その後イエスと殉教者が支配する王国が千年続きますが、封印されていたサタンが再び現れます。しかし天から火が降り注いでサタンは滅ぼされます。

イエスによる最後の審判が行われ、善人は祝福されて神の国へ、悪人は永遠の罰を受けます。新しい天と地、新しいエルサレムが現れます。

このようにヨハネの黙示録は、世界の終わりと最後の審判のあとに、新しい世界が到来することを預言したものですが、フランシス・コッポラ監督による映画「地獄の黙示録」のように、一般的には黙示録的な禍いと地獄の場面が強調して捉えられているようです。

グランド・ギャラリーを出て城壁上の通路に戻ると、メーヌ川とアンジェの街並みが見渡せ、黙示録の呪縛から解き放されたのでした。