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美術館訪問記- 581 サン=ソヴール大聖堂、Aix- en- Provence

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:サン=ソヴール大聖堂正面

添付2:サン=ソヴール大聖堂入り口

添付3:大聖堂内部

添付4:洗礼堂

添付5:壁に残るフレスコ画断片

添付6:主祭壇

添付7:ステンドグラス

添付8:ニコラ・フロマン作
三連祭壇画「燃える柴」

添付9:回廊

添付10:柱頭彫刻

グラネ美術館の北西800mの所に「サン=ソヴール大聖堂」があります。

由緒あるこの大聖堂は、言い伝えによると、アポロ神を祀っていた寺院跡に、キリストが墓から蘇らせたというラザロの船でイスラエルからマグダラのマリアと共にやって来た聖エクスのマクシマンが1世紀に建立。

サン・ソヴールとは聖なる救済者と言う意味でイエス・キリストのことです。

この教会は8-9世紀のサラセン人の侵攻で破壊されましたが、12世紀初めに再建。その後17世紀にかけて何度も改修や増築が行われ、その間の時代すべての建築様式が取り入れられておりユニークです。

ロマネスク様式からゴシック様式に造り替えられたファサードの正面入口にある木彫りの扉は16世紀初に作成され、旧約聖書の4人の預言者が刻まれています。

聖堂の内部に入ると、まず8本の大理石の円柱からなる異質な空間に導かれます。上に八角形のキューポラを戴くこの空間は洗礼堂で、他の部分とは全く作りが異なり、これらの柱は別のローマ時代の寺院から持って来たものであろうと考えられています。

古いモザイクが床に、フレスコ画が壁に、それぞれ断片的に残っていました。

これらの歴史ある佇まいの中にあって、主祭壇に置かれた説教壇と金色に光る献物台とが現代彫刻で、その対比が面白い。

19世紀に作成されたステンドグラスも鮮やかな色彩で美しい。添付の礼拝堂にあるステンドグラスは音楽を奏でる天使たちと、4人のプロヴァンス地方の守護聖人たちを現しています。

この大聖堂で最も印象的だったのはニコラ・フロマンの三連祭壇画「燃える柴」。

三連祭壇画の中央部の305×225㎝という大作に描かれているのは、燃える柴の中に現れた聖母子と、それを見上げて驚くモーゼ、燃える柴の中から現れた主の使い(天使)です。

この絵が表現しているのは、出エジプト記 第3章で神がモーゼに最初に現れた時の姿で、義父の羊の群れを導いてホレブ山にやって来たモーゼは、燃えているのに尽きることのない柴を発見します。

不思議に思って近づくモーゼに神が語りかけ、彼がエジプト人の手からユダヤ人を解放する運命にあることを告げます。

愕然とするモーゼ。しかし、モーゼはすぐに神への敬意を表し、現在でもイスラム教徒が聖なる土地で行うように、履物を脱いでいます。

ニコラ・フロマンは真作が2点、多くみても4点しか残っていない画家で情報に乏しいのですが、1435年頃南仏で生まれ1486年頃アヴィニョンで死んだと考えられており、フランス・ルネサンス初期の重要画家の一人です。

フランドルの精細で明晰な油彩技法とイタリア・ルネサンスの合理的な空間表現をあわせ持つ、両地方の中間付近に位置するプロヴァンス地方で活躍した画家らしい特徴を示しています。

この大聖堂には12世紀に造られたロマネスク様式の回廊もあり、1時間毎にしか開かない扉を抜けて、無料のガイド付きツアーで見学できます。

私が行った時は、たまたま、その扉が閉まろうとしていましたた。まさに滑り込みセーフ。聖堂から回廊に踏み出すと、そこは明るくまばゆい空間。中庭を囲む列柱回廊は、静けさと優雅さに満ちています。

列柱はよく見ると、単純な繰り返しではなく、丸もあれば四角、六角もあります。柱頭彫刻もロマネスク風の動物や人物が種々あり、ゆっくり楽しめたのでした。