カッラーラ美術館から500mほど南に行くとあるのが「サン・ベルナルディーノ教会」。
死後列聖されたシエナの僧ベルナルディーノが1411年と1419年の2度ベルガモを訪れており、彼の説教により、当時ベルガモを二分していた勢力争いが落ち着いて平和になったのを記念して15世紀半ばに建立されたと伝えられます。
ベルガモの主要通りに面しているためか、教会の左横と、後方は人家で塞がれて、ファサードも平板でシンプルな造りです。
私達が訪れた2006年4月は、開館時間は18時から19時までと限られていました。
内部はこぢんまりとして、天井も何の装飾もありません。薄暗い中で後方の座席で一人、老牧師が祈っていました。
しかし、ここの中央祭壇にはロレンツォ・ロットの最大傑作と言われる祭壇画「聖母子と聖人達」があるのです。修復されたのでしょう、まるで描かれたばかりのような色鮮やかさ。私達も余りの美しさに見とれてしまいました。
聖人たちは左から聖ヨセフ、聖ベルナルディーノ、洗礼者ヨハネ、聖アントニウス。
すると老師がやって来て、何事か話しています。どうやら祭壇画を照らす照明のスウィッチがあるようなのですが、よく判らない。業を煮やして自分で来て、スウィッチを入れてくれました。
照明を浴びると、また一段と色彩が鮮やかになり、細部までよく観察でき、改めてロレンツォ・ロットの独創性に感嘆しました。
この祭壇画は1521年の制作で、それまでの祭壇画注文の経験を踏まえて、全く前例のない祭壇画を創り出しています。
前回の「マルティネンゴの祭壇画」は、幾つもの独創的個所はあるものの、基本的骨格は、それまでのピエロ・デッラ・フランチェスカやジョヴァンニ・ベッリーニたち同様、礼拝堂の建物内に納める構図を採っています。
この絵では礼拝堂型の背景を払拭し、聖人全員を自然の風景の中に置き、聖母子の上にはビザンティン風のクーポラではなく、聖母マリアの赤い衣の補色となる濃い緑の布を天使たちに広げさせたのです。
つまり、何も建物のない所に、まるでテントを張るように、仮の礼拝堂を造ってみせたのです。
何という想像力であり,創造力であることでしょう。
あのレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ラファエロたちでさえ、宗教画では、聖書に書かれていることに基づくか、過去の図像を念頭に置いて構図を決めていました。
しかし、ロレンツォ・ロットは、あの第555回のレカナーティ美術館の逃げ出すマリアの「受胎告知」といい、第556回のサン・ドメニコ教会のクリスマスツリーのような「ロザリオの聖母」といい、ここの「聖母子と聖人達」といい、全て自らの創案で新しい図像を創出したのです。
まるでカメラ目線のように観客を見詰めている天使というのも初出でしょう。
彼は聖母子の足元で何を記録しようとしているのでしょうか。記録内容があなたをドキリとさせないことであるよう望みます。