ベルガモの新市街チッタ・バッサ(下の町)には多くの教会があり、そのほとんどが美術品で満たされています。
郵便局と図書館の間にあるのが「サンティ・バルトロメオ・エ・ステファノ教会」。
1613年工事着工、1642年に完成しバロック様式の建物で、ファサードには聖バルトロメオと聖ステファノの白い石像が入口両脇にあります。
入口上部のルネットにはルイージ・ガリッツィ作のフレスコ画「ロザリオの聖母」がありました。聖母マリアが聖ドメニコへロザリオを授けている傍らにシエナの聖カテリナが跪いています。
ルイージ・ガリッツィは1838年、ベルガモ近郊の生まれでカッラーラ美術学校で学んだ後、ベルガモの生んだロマン主義の画家、エンリコ・スクーリの下で仕事をこなし、師の娘と結婚して、数々の作品をベルガモとその近郊に残しています。
教会の内部は単廊式で、バロック的装飾で満たされ、天井一杯をティエポロと同時期に活躍したフレスコ画の名手マッティア・ボルトローニが1749年に制作したフレスコ画「キリストの変容」が覆っています。縦が60m、横が14mあります。
クーポラにはボローニャの画家フランチェスコ・モンティの天井画があります。
この教会の最大の見どころは主祭壇に飾られたロレンツォ・ロットの大型祭壇画「マルティネンゴの祭壇画」。520×250 cmあります。
ロレンツォ・ロットは第554回で詳述しましたが、1513年から26年までベルガモを本拠地として,多くの作品を制作しています。
「マルティネンゴの祭壇画」という名はこの祭壇画の寄進者がアレッサンドロ・マルティネンゴ・コッレーオーニだったことからつけられました。
マルティネンゴ・コッレーオーニは前回のコッレオーニ礼拝堂を造ったバルトロメオ・コッレオーニの甥で、養子でもありました。
ロレンツォ・ロットはこの絵を描くために1513年、ベルガモに呼ばれ、完成までに3年を要しています。
この絵はロットが生涯に描いたものの中でも最大の作品で、大評判となり、次々と他の教会からも注文が舞い込み、肖像画の注文も相次いで、結局14年間もこの地に留まることになったのでした。
絵の主題は玉座の聖母子の足元に聖人たちを配した伝統的な「聖会話」ですが、よく観ると、ロットの独創性と、絵に込められたメッセージが見えてきます。
絵の最上部には二人の天使がいて、青空が見えています。つまり、そこは天国で天使たちの下には正義と公平を意味する剣と秤が下がっています。
右の天使が指さす先にはモザイクで描かれたライオンといる聖マルコがあります。これらはヴェネツィアのシンボルで、ベルガモがヴェネツィア共和国と協調している現在の体制が正義だと言っているのです。
それはベルガモの領主であり、ヴェネツィア共和国の傭兵隊長でもあったマルティネンゴ・コッレーオーニの政治的信念だったのです。
剣と秤の下には両手で王冠を保持する二人の天使が宙を舞い、マリアの座る玉座の足はライオンの足型をしており、傍にはライオンがいます。これらも上記のメッセージを繰り返しているのです。
聖人たちの一番左には武装したマルティネンゴの守護聖人、聖アレッサンドロがいます。顔はアレッサンドロ・マルティネンゴのもの。
その右にいるのは聖バルバラで、顔はマルティネンゴの妻バルバラを写したものと考えられます。
この祭壇画を見た当時の人々は当然これらに気付き、領主の意図を汲んだでしょう。
そしてマリアの足元で布がたるまないように引っ張ている二人の小天使を見て、ロレンツォ・ロットの皮肉を感じ取り、彼らの可愛さも感じて微笑んだでしょう。