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美術館訪問記 - 548 オルブライト=ノックス美術館、Buffalo

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:オルブライト=ノックス美術館外観

添付2:オルブライト=ノックス美術館内部

添付3:ゴーギャン作
「黄色いキリスト」

添付4:ゴッホ作
「古い粉挽き小屋」

添付5:ヴュイヤール作
「画家ケル=グザヴィエ・ルーセルと彼の娘」

添付6:アンソール作
「花火」

添付7:スーラ作
「シャユ踊り習作」

添付8:国吉康雄作
「私もそう思う」

有名なナイアガラ滝から25㎞程南東に行くとバッファローという都市があります。

ニューヨーク州では2番目の都市で人口26万人程、都市圏人口113万人余りの工業都市です。ここにあるのが「オルブライト=ノックス美術館」。

この美術館を運営するバッファロー美術アカデミーは1862年設立され、美術公共団体としてアメリカでは最も古い歴史をもっています。

1905年に完成したギリシャ復古様式の建物は実業家のオルブライトが、1962年増築されたウィングは銀行家のノックスがそれぞれ資金提供し、この時から美術館は現在の名称で呼ばれるようになっています。

ここは広い中庭を取り囲む形の大きな長方形の内部が空洞になった建物。両側の短辺が2階建てで、片方の2階は現代芸術の展示場、もう一方はオーディトリアムになっています。

つまり1階の両側の壁が展示スペースとして利用され、一つの長辺の中央が入口になっています。従って展示数はさほど多くはありませんが密度は濃い。

その筆頭はゴーギャンの「黄色いキリスト」。ボストン美術館にある「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」と並ぶ彼の代表作と言ってよいでしょう。

これを描いたのは、ゴッホとのアルルでの共同生活がゴッホの耳切事件で破綻し、物価が安いので三度目の滞在となったフランス、ポン=タヴァンでした。

この作品ではゴーギャンの唱えた「綜合主義」が実践されています。

綜合主義とは形と色、視覚的なものと内的現実の綜合を求めたものです。画面上の造形要素の秩序を重んじつつ、精神的価値を盛り込もうとすることであり、外なる世界(感覚)と内なる世界(想像力)の綜合を追求するものでした。

印象主義から出発した彼は、自然に即する印象の世界から脱け出し、物の形を単純にして一様な色で塗りこめ、色彩が響きあうような絵を作る、そうすることにより、現実の世界とは別の精神世界も盛り込んだ世界を表そうと試みたのでした。象徴主義の一派とも言えます。

この絵では全身黄色のキリストを中心に、それと呼応して畑と丘も一面黄色で塗りこめられています。樹木や3人の女性達は形態も色彩も単純化され、絵でしか表せない、刺激の強い色同士を対比させ、かつ調和させようとしています。

もう一つゴーギャンが表現しようとしているのは、実際にポン=タヴァンにある古拙なキリストの木彫り像に信仰を捧げるブルターニュ地方の人々の「偉大な素朴さ」でしょう。そこに何か根源的なものを感じていたように思えます。

隣にゴッホの作品が並んでいました。古い粉挽き小屋の横に訳有りげに立つ男女を描いていますが、他に見た記憶のない構図です。

ヴュイヤールの友人の画家とその娘を描いた佳作もありました。親密派らしく見ているだけで此方もほのぼのとしてくる良い作品です。

アンソールの「花火」も珍しい題材。スーラの「シャユ踊り」の習作もありました。本作はオランダのクレーラー・ミューラー美術館にあります。同じ習作をロンドンのコートールド美術館でも見ました。

他にもカンディンスキー、マティス、ハートレー、ピカソ、モディリアーニ、シャガール、国吉、ミロ、タンギー、フリーダ・カーロ等の優品が揃っていました。

ミロの「アルルカンのカーニヴァル」は、空腹から生まれた絵とされています。

後にはピカソと並んでスペインを代表する現代画家と言われるようになる彼も、その頃は食事を切り詰めるほど貧乏で、お腹が空き過ぎて幻覚を見るほどに。それを絵に表現したのだそうです。

リズミカルで記号化された主題が、無邪気な子ども心を思い出させてくれます。ミロの絵には女性・鳥・星など繰り返し多く描かれていますが、これらはスペイン、カタルーニャの自然が彼の重要な美の源になっています。

「記号こそ、魔術的な感覚を引き起こす」と語ったミロの作風は、それらのイメージを単純化し、記号で表現しているのが特徴です

生き生きとした線、踊りだす星、思わせぶりな黒の存在、そして弾むモティーフたちは、配列ではなく自由な動きを感じ、見ている者を楽しませてくれます。



(添付9:ミロ作「アルルカンのカーニヴァル」は著作権上の理由により割愛しました。
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